CD発売記念イベントに出演した柳家小三治(撮影・林尚之)
CD発売記念イベントに出演した柳家小三治(撮影・林尚之)

柳家小三治(79)の「朝日名人会ライヴCDシリーズ」の6カ月連続発売を記念したイベントが10月3日、都内で行われた。長いまくらに「長短」を演じた小三治は「12月に80歳で、だいぶ枯れてきました。人柄がそのまま出るのが落語。5年後、10年後に自分がどう変化するのかが楽しみだね。変化を感じながら生きていきたい。今がターニングポイントかな。100歳でも落語をやりたい」と、100歳現役を宣言した。

5年前に師匠の5代目柳家小さんに続いて人間国宝になった。「毎度こんなもんじゃダメだと思っている。自分のために落語をやっている感じだけど、一方で、聴いた人が楽しいと感じてくれるのがうれしいね。まず、自分が楽しめなきゃ、人に楽しさが伝わらないよね」。イベントはCD発売記念だったが、「(CDは)たまったものを出しただけ。個人的にはCDを買うより、聴きに来てほしい。自分のCDを聴くことはあるけど、それは忘れちゃうんでね。ただ、中には思い出したくないものもあるし、聴いているうちに、こんな面白い噺(はなし)だったんだという発見もある」。

2年前に変形性頸椎(けいつい)症の手術も受けた。「自分の希望を言うと、後3年でまともに戻ってもらいたい。戻ることが出来ないなら、新しい自分でいられるように生まれ変わっていたいな。脱線だらけで生きてきたけど、脱線のありようで、それなりの走り方が見つかったら、新しいものが出るんじゃないかな。淡々とやって、幸せになれたらうれしいし、師匠の小さんと並べたかなとも思う」。

昭和の名人の話にもなった。小三治は三遊亭円生にあこがれ、古今東西で1番と思ったこともあったという。円生の物まねを巧みに見せながら、「でも、私の中で今の評価は違う。そんなもんで満足しちゃいけない」。古今亭志ん生と並ぶ人気者だった桂文楽についても「今の人は芸の良さが分からないから、文楽の良さも分からない。芸は棒読みでいい。文楽は聴いている中で、その情景が頭の中に浮かんでくる。今の人は多弁で、装飾を良しとしているところがある」と苦言を呈した。

師匠小さんの思い出も話した。入門して数年後、小さんの自宅で「長短」の稽古をつけてもらった時、小三治は「調子はいいな」と思っていたが、小さんは途中で寝てしまった。終わると、「お前の噺は面白くないな」と言って、そのまま床屋に行ったという。小三治は「しばらく立ち上がれなかった。傷ついて、立ち上がれないままということはなく、ここまできましたけどね。師匠は『お前の了見、やろうとしていることは何かを考えろ』と言いたかったのかと思う」。

政界で注目の小泉進次郎環境相についても言及した。「(古今亭)志ん朝が出てきた時と同じような感じがする。心の中で楽しみにしていた。正直言うと、大臣なんかにならない方が良かった。自由にものを言ってもらいたかった。逸材は逸材ですね」と期待を込めた。

小三治は取材をほとんど受けることはなく、今回は貴重な機会だった。マイペースでありながら、含蓄ある言葉の数々に、今度の休みの日には、家にたまっている小三治のCDを聴いてみようかと思った。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)