ブラックな毒舌を吐く芸人は多いけれど、終始、毒舌っぷりがブレない芸人は少ない。

お笑いコンビ、ブラックマヨネーズ、通称ブラマヨの吉田敬(45)は数少ないブレない1人。そんな吉田の「ダーク哲学」がいっぱい詰まったエッセー「黒いマヨネーズ」(幻冬舎)が今年2月に発売後、増刷を重ねるロングセラーになっています。先日、書籍のヒット記念イベントを取材する機会がありました。

同書は13~18年に幻冬舎の雑誌に連載していたエッセーを収録。吉田がこれまでの体験談、日常で感じたことなどを赤裸々につづっています。同書の一番初めに収録されているのが「初体験」。居酒屋でアルバイトしていた当時、元ヤンキーの板前さんがギャンブルで大当たり。「おっしゃあ!勝った!ソープ行って、すき焼き連れてったる!」。その当時の様子を具体的な会話を交え、自らの心情を描き、リアルに再現しています。もちろん、笑いあり、オチもあります。

「ただの下ネタじゃない。意味のある上質な下ネタなんで、内容的には大丈夫」と吉田。「初体験」のエッセーには板前さんの「その後」も書き込んでいます。そこには人生の機微があります。

同書への熱量はハンパではありません。毎月つづっていたエッセーは、25日が締め切り日。産みの苦しみを味わいながら、毎回、8枚の原稿用紙に手書きでつづり「小学生より手を真っ黒にして、手が痙(つ)りながらも書きました」。執筆する上で自分に言い聞かせたことがあったそうです。

「『テレビをみたけどおもしろくなかったな』って言われたら、あれは編集でカットされてるからやねん。テレビは言い訳ができる。でも、本は1から10までが全部、オレ。手術中の医者に手を抜かれたら嫌でしょ。大きな手術を任されたときの医者の気持ちで『絶対に手を抜かん』と決めた」

「文責・吉田敬」をかみしめながら、何度も書き直したことも。エッセーには「不倫と浮気は別物論」もあります。「不倫と浮気は違う。浮気ぐらいええやないか」との記述も。掲載した当時、人気タレントの不倫が大騒動になっていました。「不倫への世間の風当たりがすごい強くなっているとき、『不倫と浮気は違う。浮気ぐらいええやないか』。多くの仕事を失うかもという覚悟で書いた」そうですが、「まったく反響はなかった」と笑いをまじえ、振り返りました。

同書の帯には「天才コラムニスト」の文字もあります。ライバル? の質問には「五木寛之さん」と豪語しました。「排気量はちゃうけど熱量、フルスロットル感は五木さんと一緒です」。かなりハードルを上げましたが、ブレない「ダーク哲学」には、この熱さと一本気さが必要です。これからも、もん絶しながらも書きたいことは書く。言いたいことは言う。ブラックなマヨネーズをまぶしながら。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)