もうすぐ収穫を迎える「ラグビースイカ」を手にとる松原功典さん(撮影・松浦隆司)
もうすぐ収穫を迎える「ラグビースイカ」を手にとる松原功典さん(撮影・松浦隆司)

ラグビーW杯日本大会の開幕(20日)に合わせて、ラグビーボールの形に似たスイカの収穫が始まります。W杯の試合会場の1つとなる東大阪市の花園ラグビー場から直線距離で約200メートルの畑で長年、楕円(だえん)形をしたさまざまな野菜を作り続けている農業の松原功典(こうすけ)さん(86)。海外のラグビーファンに「ラグビースイカ」を味わってもらうために、通常7~8月の収穫時期を9月にずらすことに成功しました。

「ここまで来たら、もう大丈夫」。暑かった夏を越えて育った楕円(だえん)形の「ラグビースイカ」。畑で作業する松原さんの声が弾みます。「やっぱり、採れたてが一番、おいしい。味のいいもの確保したいからね」。収穫日はW杯開幕翌日の21日です。22日に花園ラグビー場では、イタリア対ナミビア戦が行われます。このカードが花園ラグビー場での「W杯初戦」。この日のために、松原さんは長い歳月をかけ、スイカの抑制栽培に挑戦してきました。

「ラグビースイカ」の収穫をずらす挑戦は、試行錯誤の連続でした。挑戦したのは「ひとりじめSmart」と呼ばれる品種で、重さは2~3キロ。日本でのW杯開催が決まってから9月に収穫できるように、種まきの時期をずらし、栽培方法を考えてきました。畝の高さを調整し、余分な水分が入り込まないように配慮するなど、多くの時間を費やしてきました。

一昨年は9月に収穫できた「ラグビースイカ」もありましたが、昨年は台風21号の影響で、根が傷み、収穫はゼロ。「順調に育っていても、農作物は天候に左右されることが多い」。今夏も台風が発生すると、祈るような思いで天気予報を気にかける日々でした。

楕円形の野菜への強い思いがあります。松原さんは東大阪市の大阪英田農協(現・JAグリーン大阪)で43年間勤務し、退職後は農家に。91年にラグビー強豪国のニュージーランドに旅行したとき、現地の人は日本の「花園」の名前を知っていましたが、同じ年に行った東北旅行では、知らない人が多かったといいます。「農業を通じて花園のあるラグビーの街・東大阪市を盛り上げることはできないか」。

農協の同僚からラグビーボール形のカボチャの存在を教えてもらい、栽培を始めました。キャベツやカボチャ、トマトなどの栽培にも取り組んできました。ときには辛坊強く、成育を待ちました。メディアにも「ユニークな野菜」として取り上げられるようになりました。

楕円形の野菜の生産に取り組んで20年以上がたちました。「これまでやってきたことの集大成がW杯。盛り上げに少しでも貢献できたら幸せ」。

「ラグビースイカ」はイタリア対ナミビア戦に合わせて花園ラグビー場内で開かれる物産展に出品されます。試合後、松原さんが無料で「ラグビースイカ」をふるまいます。1カ月遅れの「ラグビースイカ」。地道に積み重ねた「トライ」がもうすぐ実ります。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

収穫した「ラグビーカボチャ」を手にとる松原功典さん(撮影・松浦隆司)
収穫した「ラグビーカボチャ」を手にとる松原功典さん(撮影・松浦隆司)