大阪の空をプカプカと泳ぐ「づぼらや」の道頓堀店の立体看板「ちょうちんフグ」(撮影・松浦隆司)
大阪の空をプカプカと泳ぐ「づぼらや」の道頓堀店の立体看板「ちょうちんフグ」(撮影・松浦隆司)

カニ、フグ、動く人形-。大阪・ミナミの繁華街、道頓堀周辺を歩くとユニークな看板の数々に出くわします。強烈な個性を放つ立体看板は、いまやすっかり大阪の顔です。ナニワの看板御三家と言われるのが「くいだおれ太郎」「かに道楽の動くカニ」「づぼらやのちょうちんフグ」。新型コロナウイルスの影響でフグ料理の老舗「づぼらや」の新世界本店と道頓堀店が9月に閉店することになり、ナニワの看板御三家は“解散危機”に直面しています。

約2カ月ぶりに「職場復帰」したくいだおれ太郎(撮影・松浦隆司)
約2カ月ぶりに「職場復帰」したくいだおれ太郎(撮影・松浦隆司)

「♪ドンドン・チンチン、ドン、チンチン」。今月1日に中座くいだおれビルの入り口に立つ「仕事」に復帰したばかりの名物人形「くいだおれ太郎」。苦楽をともにしてきたライバルの“去就”に気をもんでいます。くいだおれ専務取締役の柿木央久(てるひさ)さん(53)が太郎の気持ちを代弁します。

「フグさんがおらんようになったら、わて、寂しいですやん」

太郎が立つ左手前方には盟友が空を泳いでいます。ちょうちんフグが道頓堀に登場したのは太郎よりも7年遅い1957年(昭32)。長さ5メートル、高さ2・5メートル、横幅3メートル、重さは200キロの“巨体”です。

「づぼらや」の新世界本店は1920年(大9)に「大阪で初めてふぐを食べさせる店」として開業。ちょうちんフグが3階からつり下げられました。大阪の街の立体看板としては元祖的な存在で、太郎も「道頓堀では、わてのほうが早くデビューしましたけど、大阪ではフグさんのほうが大先輩ですねん」と言うほどです。


「かに道楽本店」の動くカニ(撮影・松浦隆司)
「かに道楽本店」の動くカニ(撮影・松浦隆司)

フグよりも少し遅れ、1962年(昭37)に登場したのが「かに道楽本店」の動くカニ。同店は「ここ道頓堀で、長いお付き合いですからね。なんとか…」。盛衰の激しい道頓堀で60年近く、ライバルとして、“競演”してきた御三家だけに、思いは募ります。

御三家の「実績」は文句なしです。かつて大阪の代表的なお土産といえば「岩おこし」や「塩こんぶ」くらいでしたが、広報コンサルタント会社「伴ピーアール」が企画した「くいだおれ太郎」「かに道楽の動くカニ」「づぼらやのちょうちんフグ」のナニワの看板御三家キーホルダーが93年に発売されると、大ヒット商品となりました。

いまでは御三家のお土産グッズはキーホルダーだけでなく、ストラップ、ボールペン、靴下…。大阪限定グッズだけに大阪を訪れた証しとしても大人気です。「伴ピーアール」の伴益江社長(59)は「つぼらやさんのフグは大阪を象徴する1つです。大阪らしさがなくなってしまう」と心配します。

雑多でにぎやかな大阪らしさを象徴する道頓堀。コロナ禍で大阪の観光業界も大きな打撃を受けました。「づぼらや」は9月15日で閉店予定ですが、ちょうちんフグの看板の扱いは未定だといいます。

大阪観光の復活に向け、太郎、カニ、グリコのネオン看板、金龍ラーメンの躍る龍ら「道頓堀の住人」が、ちょうちんフグの“残留”を強く望んでいます。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)