自然体という言葉がよく似合う。妻夫木聡(39)。98年のデビューから20年以上、第一線で活躍してきた。11日からTBS系ドラマ「危険なビーナス」で「オレンジデイズ」以来、16年ぶりに同局系看板枠「日曜劇場」の主演を務める。20代前半のころからの変化、変わらず持ち続けている信念を聞いた。

★曲がったこと嫌い

朝から情報番組に生出演。2件目の取材にもかかわらず、疲れを一切みせない柔らかい笑顔でインタビューがスタートした。「半沢直樹」の後を継ぐ日曜劇場で主演する思いを聞いた。

「枠というものをあまり意識したことがなくて。僕自身シンプルに、TBSさんの連ドラに出るのが16年ぶりっていう方のインパクトの方が強いんです。『ドラマのTBS』って言われる中で、今回は期待に応えられるように僕たちは頑張っているつもりですね」

正義感が強くてうそをつけない独身の獣医師・伯朗を演じる。

「曲がったことが嫌いっていうのはすごく似ているのかな。特に自分自身が大事に思っている人が嫌な目にあったりするのは許せない。どこか頼りない部分を持っているところに好感をもちました。少しずつ伯朗さん自身も成長していける物語になるのかなっていう気がします」

“憑依(ひょうい)型”とも評されるが、ドラマは一般的に、映画と違って最初から台本がないため役作りが難しいという。

「やりながら伯朗さんに近づいていければいいなっていう思いがありました。なぜ獣医師を選んだんだろうな、とか。そういうことのアイデンティティーから入っていきましたね。絶対に動物病院には行かせて欲しいって言いました。そこに少しでもヒントがあるのかなって」

現場ではヒロイン役の吉高由里子がボケ、妻夫木がツッコミになり和やかな雰囲気という。

「ミステリーなのであまりにも緊張感がありすぎると見ている方も疲れてしまうと思います。今回は、(脚本家の)黒岩勉さんがコミカルな場面も付け加えてくださっています。基本的には楽しい雰囲気で、ぴりっとしなきゃいけないタイミングをみんな分かってやっている感じなのかな。だからすごく居心地が良いのかもしれないです」

人気作家・東野圭吾氏の原作だ。

「個性の強いキャラクターばかりなので、ドラマでは1人1人に焦点を当てた、どこか群像劇のような部分も魅力です。ドキドキさせるような展開を1話1話、回を重ねるごとに増していければと思っています」

★必要とされる幸せ

「日曜日のヒーロー」に登場するのは17年ぶり。当時22歳で同局系「ブラックジャックによろしく」で連ドラ初主演を果たし、映画の公開を4本控えていた。

「スタッフさんもみんな素晴らしい方たちばかりでこれが『ドラマのTBS』なんだなってすごく感じた瞬間でもありましたね。当時も今も演じることはシンプルに楽しくて幸せなことだと思っているけれども、昔と違って『誰かに必要とされる』っていうことがすごくシンプルに僕は幸せなことなんですよね。役者として、必要とされるっていうことが一番幸せなこと。こうやってTBSさんに必要とされたことは本当に幸せですね」

当時は女性誌の「セクシーな男」ランキングで上位に入るなどルックスの良さがパブリックイメージとしてあったが、さまざまな“かっこよくない役”にも挑戦してきた。これからもそうありたいという。

「個性がないって言われた時があって。それも1つの個性かなって思った時から割とずっとその考えなんです。むしろ個性がない方がいろんなことに挑戦できるじゃんって。どうせ役者やるんだったらいろんな役やりたいなって。常に貪欲であるっていうことは大切なのかなって思います。あまりそこらへんの根底は変わってないですね」

ドラマ、映画、演劇、声優、海外作品と幅広く活躍してきた。

「1度きりの人生だし、面白いものが目の前にあったらやっぱりそれは食いつきたくなるから。僕の人生はやっぱり僕の人生なので(笑い)。今まで通り、好きなことをやっていきたいのかなとは思います」

★まだようやく1歩

日本アカデミー賞最優秀主演男優賞をはじめ、数々の賞を受賞。日本を代表する俳優だ。12月には40歳誕生日を迎える。

「まだようやく1歩踏み出したという感じですね。実はもう40歳だし。昔の時代で考えたら40歳の原田芳雄さんなんてめちゃくちゃ脂がのっていて、とんでもない芝居をされていたし最高にかっこいい。やっぱり勉強勉強の日々だなって。僕自身、いろんなことを模索して悩みながらこれからもどんどんやっていけばいいのかなって思います」

20代前半からぶれない軸を持ちつつ、キャリアを積む中で変化もある。

「知識と経験はあの時とは圧倒的に違うと思うし、それに甘えるっていうことは絶対にしたくないなっていう意識はあります。その中で一番あの時と違うのはやっぱり『覚悟』っていうものかな。何に対しても覚悟を持ってやるということが、あの時とは違うことなのかもしれないです」

当時「俳優は一生もの」とも語っていた。その後、16年に女優マイコ(35)と結婚。昨年12月には第1子が誕生した。

「年をとっても年とった役ができるし、いろんな挑戦の連続だと思うんですよね。それは一生ものだと思います。だけど自分の人生が俳優だけだと思わなくなったかな。自分のためだけに生きるっていうのが昔は強かったけど、今はそれだけじゃない。家族もできましたからね」

★目を向けたい海外

ただ、日常生活でも人のリアクションや表情が気になってしまったり、俳優目線でみてしまうという。

「いろんな表現の仕方を引き出しとして持たなきゃいけないから、なるべくいろんな経験をしようと心がけていますね。新しいことに挑戦することは大事な気がします。それを純粋に僕は楽しめているのか、というのは最近ちょっと疑問に思いますが(笑い)」

24時間俳優・妻夫木聡にならないよう、常日頃から自然体を意識している。生活水準も、なるべく普通でいることを心がけている。

「具体的な目標像はないんです。30歳超えたら甘えっていうのが通用しなくなってきて意識がちょっと変わりましたね。もっと自由でいいや、今感じる新鮮な気持ちを楽しもうって。肩の荷が下りた感じがあったんですよね」

その頃から少しずつ海外作品にも出演し始めた。

「意外と世界ってそんなに広くないなって思ったんですよね。結局は芝居をやっていて、一緒なんだなって。気軽に友達の家に遊びに行くみたいな感覚で行ってもいいのかなって思ったんですよね。当然日本の作品も大事にするというのが一番にあるんですけど、40代はもう少し海外に目を向けてみようかな」

取材後、妻夫木は「10年後くらいにまたインタビューしてください」と言って立ち上がった。笑顔、立ち上がる所作、会釈がどこまでも自然で美しかった。

▼「危険なビーナス」の橋本芙美プロデューサー

巻き込まれ型でどこか頼りない、だけど誰よりも真っすぐな心が、どんな状況も変える力を持っている。そんな新たなヒーロー像である伯朗を、こんなに魅力的に演じられるのは、妻夫木さんしかいないと改めて思った。私たちは気づかないうちに伯朗のちょっとした表情にやられている。伯朗の「かわいい」と「かっこいい」、「頼りない」と「頼もしい」、相反するものが絶妙に同居する感じは誰にもまねできないと思う。回を追うごとに謎が深まり、同時に恋愛模様もさらに展開する中で、妻夫木さん演じる伯朗が次はどんな表情を見せてくれるのか? 楽しみでたまりません。

◆妻夫木聡(つまぶき・さとし)

1980年(昭55)12月13日、福岡県生まれ。97年ホリプロ主催「超ビッグオーディション」で第1回グランプリ。98年フジテレビ系ドラマ「すばらしい日々」で俳優デビュー。01年初主演映画「ウォーターボーイズ」で日本アカデミー賞新人賞。03年TBS系「ブラックジャックによろしく」で連ドラ初主演。10年映画「悪人」で日本アカデミー賞、ブルーリボン賞、日刊スポーツ映画大賞の主演男優賞。映画「浅田家!」が公開中。171センチ。血液型O。

◆「危険なビーナス」

TBS系日曜劇場。東野圭吾氏の小説が原作。妻夫木演じる主人公・伯朗の元に、吉高演じる「(伯朗の)異父弟の妻」と名乗る謎の美女が現れ、弟が失踪したと聞かされ、30億円もの巨額の遺産をめぐる名家の謎に挑むミステリー。

(2020年10月18日本紙掲載)