リモートドラマ、テレワークドラマなど新手法ドラマの試みが続くドラマ界。先ごろ、ソーシャルディスタンスドラマと銘打ったフジテレビ「世界は3でできている」(11日)が放送された。分割画面や低画質とは無縁の進化ぶりに驚き、いい脚本、いい演出、いい俳優でド直球の人間ドラマを見た実感。1人で3つ子を演じ分けた林遣都の輝きを見ながら、これからは俳優の力量がしっかり表面化する時代とも感じた。

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緊急事態宣言が解除され、マンションで3カ月ぶりに再会した3つ子の物語。会計事務所勤務で弟思いの長男、商事会社で伸び悩んでいる次男、農園を営む癒やし系の三男。「思ってもみなかった3カ月」がもたらした三者三様の身の回りの変化が、笑いと涙で描かれる。

林遣都が3人の魅力を生き生きと演じ分け、あの部屋に本当に3人いるように見える。何かをしながら互いの視線が自然に合い、誰かのアップもあれば、背中越しのシーンも。モノを投げればキャッチし、兄がラーメンを作れば取りに行って3人で食べる。何げない3つ子の風景がきちんとストーリーの伏線になっていて、違和感のない画面に「これどうやって撮ってんの?」の幸福感があるのだ。

フジによると、林を含め、事前の打ち合わせはすべてリモート。撮影は広いスタジオの中央にポツンとセットを組み、3日間で行われた。

セットの中は林のほか、しっかり距離をとったカメラマン2人のみ。後の合成のため、撮影は台本通りに撮っていく「順撮り」で進められた。林は1回のせりふごとに服を着替えて3役を同時進行で演じ、1日の着替えは100回以上になったという。カメラは、無人の据え置きを含めて計3台。カメラワークの離れ業と根気のいる合成作業によるもので、デジタルとマンパワーの両輪であることもいろいろ痛快だ。

「思ってもみなかった3カ月」。それぞれの場所で頑張った人々の暮らしをスッとすくい上げるような、水橋文美江氏の脚本。ヒーローもトンデモキャラもいない、普通の人の物語であるのがいい。個人的には、エリートな長男が、優等生ゆえにちょっと損をしている成り行きがツボ。「不要不急の人材」だった次男の方が「空気読まなくていいオンライン会議超向いてた」と人生を好転させているコロナ禍のリアル。何でもできて1人のスキルばかり上がってしまった兄の、微妙な立ち往生が切ない。

「春日谷麺メン、つぶれちゃった」。亡き母や、お世話になった製造元の思いが詰まった味があっけなく消えてしまったというコロナ禍の1ページ。誰もいない渋谷の風景を忘れつつあるように、大事なことも忘れていくのだろうかという漠然とした後ろめたさが、今の空気感に突き刺さる。「忘れても、思い出すよ」。忘れていた母親の隠し味を29歳になった3つ子たちがたった今思い出したように、いつかちゃんと思い出す。納得のいくせりふがキラキラと胸に残る。

試行錯誤のコロナ禍で、この脚本と演出で迎えられた林遣都は果報者だし、それに値する信頼をこれまでの現場で勝ち取ってきた人なのだと思う。実際、茶髪やメガネで簡単に3つ子をキャラ分けせず、生身で個性と関係性を立ち上げたことに俳優としての志を感じる。弟たちにラーメンを作り、自分は鍋と菜箸のまま食べている長男のような描写ひとつにも人物の輝きがしみじみとあり、定期的に、またこの3つ子に会いたいと思った。

各局の連ドラが再開したとはいえ、密を避けるガイドラインによるリモートな打ち合わせ、イレギュラーな撮影は続く。不要不急な役どころは台本からリストラされ、企画中の作品などは役の数自体がぐっと減っているとも聞く。逆に言えば、しっかりパフォーマンスできる俳優力や、選ばれる存在感に触れるチャンスでもあり、それはそれで見応えがあると感じる。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)