ものまねタレント清水アキラの三男のタレント清水良太郎(29)が逮捕された。事件が明らかになった12日、記者は怒りに震えた。

 記者の属する文化社会部という部署は、半年に1度、グルメ記事の担当が回ってくる。その前日、お台場のフジテレビから築地の日刊スポーツまで帰り、グルメ記事を書こうとしたら、スクランブル指令が飛んだ。同僚が倒れたとのことで、急きょ、夕方に新宿まで取材に出向いた。築地の会社で原稿を書こうと思っていた記者の残存エネルギーは、もはやなし。その日の原稿執筆は断念した。

 そして12日。またしてもお台場のフジテレビで、シルク・ドゥ・ソレイユ「キュリオ」の制作発表の取材。小倉智昭さんが出席するとあって、「Yahoo!ニュース」トップ間違いなしのとっておきの質問を用意しておいたのだが不発。あとはお台場でグルメ記事を書いて、夜に予定されている某局美人担当広報との打ち合わせを…と思い描いていたらスマホが鳴った。

 「人がいない」。

 デスクが泣きそうな声で困り果てている。清水容疑者逮捕でスクランブル体制をとらなくてはいけないのに、記者の人数に余裕がない。病気はしょうがないにしても、こんな時に限って、稲刈りだの山歩きだののんきな取材で出払っている。で、のんきにグルメ記事を書こうとしてた記者に緊急出動の命令が下った。

 出撃場所は清水容疑者の自宅。都内北部の練馬区に近い、中野区内だ。普通に考えれば、電車で優に1時間以上はかかる。すでにエース記者が現場に到着している。電話をしてみると、夜には業界の大切な集まりを控えているらしい。

 考えている暇はない。

 「迷わず行けよ、行けば分かるさ」とばかり、一休禅師だか、アントニオ猪木参議院議員だかの言葉をかみ締めながら、タクシーに飛び乗る。行き先を告げて、スマホで検索すると35分くらいで到着予定だ。

 が、しかし、高速に乗った運転手さんが、カーナビの意思とは反して都心を突っ切ろうとする。都心の首都高速をぶっ飛ばして、あとは下道を行く気だ。「外の方からガーッと行って、新宿の先で降りて、環状七号線をひたすら北上して」。メーターの出る指示に、運転手さんも文句はない。大外回りの空いた高速を、ひたすら飛ばしていく。

 予定より10分くらいオーバーして、清水容疑者の自宅に到着したが、兄で所属事務所社長の清水友人氏の会見がすでに始まっていた。事情が分からないので、取材陣に囲まれている友人氏の写真を撮ったりしているうちに、30分ほどで会見は終了。エース記者は急いで社に引き返し、記者は現場に残された。

 他社の記者の「あんた、何しに来たんだよ。写真部に異動したのか」という冷たい視線に耐えながら、その撤収作業を見守る。各社の撤退体制が整ったところで、社に電話をすると引き揚げていいという指令が出た。

 グルメ原稿の方は、清水容疑者の自宅へ出撃する時点で、翌朝でいいという許可をもらっていた。余裕ができたのでグルメ記事の写真だけを出稿して、そのまま会合へ向かった。その某局との打ち合わせの中でテレビ、新聞に限らず、既存のメディアはネット社会の中でどうすれば生き残っていけるかという話になった。

 ある雑誌社はネットページの会員数、ページビューを増やすことで、広告収入のアップを図っている。また、ある新聞社はネットの有料会員に特化した記事で、収入を確保している。

 で、日刊スポーツはどうなのか。記者が考えていたのは、グルメ記事のことだ。グルメ記事は、駅やコンビニで売っている即売版には載っていない。ご家庭に配達する宅配版のみだ。ちなみに即売版ではグルメ記事ではなくエッチ面が載っている。

 記者は宅配版のグルメ記事では、新聞でしかできないことをやろうと思っていた。おいしいお店も、秘伝のレシピも、スマホで一発検索の時代に大きな新聞紙面で何ができるか。そして、自分が記者として何ができるかを考えた。

 16日付日刊スポーツ宅配版のレジャー面グルメページは「食」であるが、笑いも取りに行った。腹はいっぱいになっても、ネット時代のメディアの生き残りは厳しい。そんなことを考えさせられた、清水容疑者の逮捕騒動の日だった。