山田洋次監督(86)が命名した、こまつ座「戦後『命』の三部作」の完成会見が先日、行われた。

 作家井上ひさし氏作の「父と暮せば」、井上氏の構想をもとに死後に舞台化された「木の上の軍隊」、そして山田監督で吉永小百合、二宮和也が主演した映画「母と暮せば」の舞台版の3作品。「父と」は広島で被爆した父の幽霊と娘、「母と」は長崎で被爆した母と息子の幽霊とのを交流を描いている。「母と」は山田監督が監修を務め、演出は栗山民也氏、母役に富田靖子、息子役に松下洸平が出演する。

 会見で自ら命名した山田監督は「三部作」への思いを語った。「死者が亡霊となって現れて、会話を交わすという物語は昔からたくさん生まれてきました。井上さんは『父と暮せば』で死者の亡霊を、原爆の地獄の中で焼き殺されたお父さん、生者を娘にして、父と娘のドラマを作り上げました。それを二人芝居という難しい形で。しかも重い主題でありながら、軽くて、ユーモアを交えながら楽しく見ることができる。こういう作品を書くことができるのは井上さんが天才だから。井上さんにしかできないことだと感心していました」と話した。

 さらに、井上氏が「父と」を執筆した際に広島に何度も通ったことに触れて、「実際に被爆から生き残った人の言葉を書き記したそうです。コピーではだめだということで、几帳面な字でノートに書き写したそうです。僕も長崎の原爆についての資料館に残された資料を見ている時に、井上さんのような気持ちになってきました。さすがに全部を書き写すことはできなかったですが、大事なところだけでも書き写そうと思いました」と振り返った。さらに、三部作上演の意義にも言及した。「『母と暮らば』も含め、三部作が繰り返し上演されるということは、今の戦争のにおいがプンプンする世界には大事だろうと。きっと観客も熱烈に迎え入れてくれるに違いない」。「父と」は6月、「母と」は10月に上演される。