政府が、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、4月7日に7都府県を対象に緊急事態宣言を発令して、もうすぐ1カ月。同16日には対象地域が全国に拡大され、6日までとされた期限は対象地域を全国としたまま1カ月程度、延長する方向だ。全国で数多くの映画館が休業に追い込まれ、新作の公開延期も相次いでいる。
この1カ月足らずの期間で、新作映画2本の公開が延期になってしまった監督がいる。行定勲監督(51)だ。まず4月11日に、同17日に公開予定だった「劇場」の公開延期が発表され、さらに1日には、6月5日に公開を予定していた「窮鼠はチーズの夢を見る」の公開延期も決まった。
「劇場」は、又吉直樹の同名小説を実写映画化し、山崎賢人(25)と松岡茉優(25)が主演。中学時代の友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家と演出家を務めるものの、前衛的すぎる作風が酷評され、悩む永田(山崎)と、女優の夢を描く学生沙希(松岡)が街角で出会い、同居を始める恋愛物語だ。
「窮鼠はチーズの夢を見る」は、水城せとな氏原作の同名漫画と「俎上の鯉は二度跳ねる」の映画化で、関ジャニ∞大倉忠義(34)と成田凌(26)が主演。学生時代から自分を好きになってくれる女性ばかりと、受け身の恋愛を繰り返してきた大伴恭一(大倉)が、7年ぶりに再会した大学の後輩・今ヶ瀬渉(成田)に「昔からずっと好きだった」と思いを告げられ、戸惑いつつも一緒に暮らし始める物語だ。
両作品とも、若い世代を中心に人気が高い俳優をキャスティングし、原作も話題性がある。本年度の日本映画界における、話題作だった。ただ、その両作品の公開延期という事態に直面しながら、行定監督は「落ち込んでも何も生み出せない。困難な状況だからこそ作品作りを諦めてはならない」と、新たな作品を生みだした。
それが、4月24日午後8時にYouTubeで公開した約45分の短編映画「きょうのできごと a day in the home」だ。行定監督は、政府が7都府に緊急事態宣言を発令した4月7日に、全国で映画館が臨時休業に追い込まれていく中「エンターテインメントの力で社会に勇気と希望を示したい」という思いで制作会社ROBOTとタッグを組み、企画を立ち上げた。
脚本は行定監督と、同監督の04年「世界の中心で、愛をさけぶ」でも組んだ脚本家の伊藤ちひろ氏が担当。外出自粛要請が出ている東京を舞台に学校の先輩、後輩が、ウェブ会議システムを通じて“バーチャル飲み会”に興じるという今、日本で起きている状況をそのまま描いた物語を作り上げ、完全リモートで製作することにした。
そして「我々、映画人には何か出来ることがあるのではないか」と映画業界内で呼びかけた。その声に、柄本佑(33)高良健吾(32)永山絢斗(31)2人組ラップユニットMOROHAのアフロ(32)浅香航大(27)有村架純(27)が賛同して出演を快諾。企画立ち上げから2週間弱という異例の早さで撮影、製作、配信までこぎ着けた。人気キャストが顔をそろえたこともあり、配信開始から1週間が経過した1日午後10時時点で、再生回数は13万9063回に及んだ。
映画人として、映画作りを諦めない…行定監督の不屈の魂、エンターテインメントの力を信じる心、そして妥協のない映画作りの姿勢には、頭が下がる。その姿勢は、愛する故郷・熊本が歴史上、まれに見る災害に見舞われた熊本地震においても、新たな作品を生み出した。同監督は15年に故郷・熊本の美しさを伝える意図で「うつくしいひと」を製作。翌16年4月14日に熊本地震が発生すると、同10月に甚大な被害を受けた益城町で撮影を敢行し、続編「うつくしいひと サバ?」を製作した。「記録し、忘れさせない、風化させない」という、映画のもう1つの力を形にした1本だった。
「きょうのできごと a day in the home」に、これだけの人気者が「映画愛」だけで集結したのも、行定監督の人間性のたまものだろう。新型コロナウイルスの感染拡大、影響が長期化の様相を呈する中、行定監督が次にどのような作品を生み出すか…その挑戦を見守り、伝え続けたい。



