先週は2度、平安朝の叙情に涙し、風雅に酔いしれる機会を頂いた。
週前半は宝塚花組公演「蒼月抄」。平安時代末期に栄華を極めた平清盛亡き後、実質的に一門を率いた清盛の四男、平知盛を主人公とした平家滅亡までの物語。若く有能な武将であった知盛を永久輝せあ、その聡明(そうめい)な妻、明子を星空美咲が演じ、平家の次代を知盛と共に担う弟、重衡に聖乃あすか、従兄弟、教経に極美慎、と華やかな実力者たちが勢ぞろいした。
副題が「平家終焉の契り」とあるように、没落への足音がひた迫る中、最後まで誇りと気高さを失わず壇ノ浦で散っていく平家一門。華やかな舞台にもかかわらず無常感が基調に流れる心残る演出で、私は一人涙した。初めて大舞台を担当する若手の熊倉飛鳥氏による作。宝塚ファンの一人として今後の演目にも大いなる期待を寄せたい。
そして週後半。時代は300年ほどさかのぼって平安初期。時代を代表するプレーボーイ、在原業平の兄、行平を慕う海女姉妹の物語。演目は「松風」。シテ方金春流能楽師、第二十一代櫻間家当主、櫻間右陣氏の舞台人生60周年記念公演を観た。
能の舞台には何も置いていない。そこに地謡、囃子方が粛々と登場して端然と座り、後見が松を一本運び入れる。現れた僧侶がここは須磨だ、と言えば不思議とそこは海辺の塩屋としか見えなくなる。
潮くみを終え、塩屋に戻ってきた姉妹は実は昔、この地に3年間隠棲していた行平を慕った松風、村雨という姉妹の亡霊で、2人は行平への執心を狂乱の舞で表し、僧侶へ弔いを頼む。死してなお愛した人を忘れられない切ない心を右陣氏とまな弟子の阪本葉氏が舞い、地謡、囃子方、シテが渾然一体となり、響き合って幽玄の世界が出現した。「あはれ」とはかような気持ちか、と情趣に浸ったが、隣では妻が、地方の純情な職業婦人姉妹をたぶらかした都会の遊び人、行平め、と怒っていた。
続く野村萬斎、裕基親子の狂言に客席は笑いに包まれ、番組は石橋で締めくくられた。右陣氏の白獅子は勇壮、そして石橋披きとなった阪本昂平氏の赤獅子は若々しく躍動感にあふれ、日本が誇る伝統芸能、能の世界でも芸の継承がつつがなくなされていることに心強さと安心を覚えた。


