岸田文雄首相が、さきの衆院選東京8区で落選した石原伸晃前衆院議員(64)を内閣官房参与に起用する人事が発表され、批判が拡大している。今年10月4日の政権発足以来、ここまで施策(しかも本筋ではない)に批判が出るのは初めてではないだろうか。この人事と時を同じくして、オミクロン株の水際対策強化を念頭に日本人の入国停止措置を航空会社に要請しながら1日で撤回する失態もあったが、これは政権内の問題。石原氏の参与起用はひとえに首相の判断だけに、ある意味深刻だ。

内閣官房参与とは、「内閣官房に参与を置く規則」で「各種分野において専門的な立場から内閣総理大臣に情報提供や助言を行う非常勤の公務員」と位置づけられるが、いわゆる私的なブレーン。出勤すれば日給は1日2万6400円だが、人数の上限や任期も特に決まっておらず、決める際の手続きも国民には見えにくい。だからこそ、今回のような「石原問題」が起きる。菅直人政権や第2次安倍政権では最大15人が名を連ね、「船頭多くして船山に登る」の悪例として、国会で質問に取り上げられたこともある。

岸田内閣発足時には、菅政権時代の8人が再任された。それぞれ担当の専門分野があり、第2次安倍政権から9年近く参与を務める飯島勲氏は、小泉官邸を仕切った剛腕秘書官の立場から危機管理の担当。秘書官出身者では、安倍晋三元首相の懐刀だった今井尚哉氏も第2次長期政権を支えた経緯もあり、菅政権以降、参与を務める。

専門性や手腕が見込まれて起用のケースもあるが、国会関係者に話を聞くと、参与の「お友達枠」や「選挙落選者救済枠」は、以前から存在する。直近では、第2次安倍政権のもと、16年参院選で落選し、政界を引退した荒井広幸・元新党改革代表と、17年衆院選で落選した西川公也元農相が、17年11月に起用された。荒井氏は安倍氏と関係が近い。西川氏は農業政策に詳しいが、参与起用は落選のわずか1カ月だった。

そして石原氏も、衆院選落選からまだ1カ月あまりしか経過していない中での、参与起用だ。観光立国分野の担当というが、国交相経験者とはいえ観光政策の専門家ではなく、とってつけた感は否めない。

首相は石原氏と同じ年で初当選の年次も近い。2012年自民党総裁選で、当時幹事長だった石原氏が出馬した際、首相が推薦人となった。今回の総裁選では、石原氏は総裁選で首相を支援。「持ちつ持たれつ」の盟友だ。衆院選では東京8区で石原氏の劣勢が伝えられる中、首相は「応援しても落ちた」のリスク覚悟で、応援にも入った。2人の関係性が見て取れる。

「内閣官房参与は、首相の秘書官や補佐官に比べると、『置いておいて便利な知恵袋たち』という意味合いが濃い。専門性があるとはいえ、国会で答弁するような責任もない」という話も、永田町で聞いた。表舞台での活動が見えない分、何を助言しているかも分かりにくい側面もある。

前出の西川氏は政治とカネの問題が発端となり、参与を辞任。菅政権では、SNSでの発信や週刊誌のスキャンダル報道で参与の辞任が続いた。こうした事態は起用した首相自身の責任に跳ね返ってくるはずだが、起用の経緯が見えにくいだけに、責任の所在もなんだかあいまいになってきたのが、実情だ。

石原氏は衆院選落選で政界引退かといわれてきたが、参与として思わぬ形で国政に関与することになった。しかも、その立場は首相の腹ひとつで決まったもの。「救済」といわれても仕方ない。インターネット上では、石原氏の内閣官房参与起用について「国政に携わらせたくないという選挙で示された民意を踏みにじっても構わないくらい、軽いものであるらしい」という声もあった。抗議の声は日々拡大している。

首相にとっては気心知れた間柄の人間でも、国民の抱く思いからはズレまくっているのは明白。明日12月6日から臨時国会が始まるが、野党にもし起用の理由を問われたら、首相にはしっかり説明してほしい。「人事の私物化」「お友達内閣」という過去の自民党政権のネガティブイメージを、まさか岸田政権もしっかりと引き継ぐとは、多くの国民は思っていなかったはずだ。【中山知子】