東日本大震災で夫を亡くした岩手県住田町の保育士、小田文香(ふみか)さん(45)は、発生7年の11日、陸前高田市立図書館の職員だった夫の信弘さん(当時41)の仏壇前で過ごした。「慰霊祭とかに行った方がいいんだろうけど、特別な日にしたくなくて」。信弘さんと未来ある子どもたちへの思いを胸に、本に関わる仕事を探している。

 夫婦で2男1女をもうけ、子供の幼少期には、本の読み聞かせもしていた信弘さん。図書館では主に移動図書バスを運転し、貸し出しなどの業務も担当した。7年前も運転中。津波にのまれ、文香さんが遺体に対面したのは8日後だった。「きっと最後まで避難誘導をしていたのだと思う。本当にばかまじめな人。どこにいても、あの人は死んだと思います」。普段から、困っている人をほっておけない性格だった。

 津波で同市内の自宅と勤務先の幼稚園も流された。文香さんは、子ども3人と実家がある住田町に移り、保育所で働いた。ある日、市の読書ボランティアグループ「ささ舟」が、当時担当していた1歳児のクラスで、絵本「モーっていったのだあれ?」を読み聞かせてくれた。子どもたちは大喜び。文香さんも一緒になって笑った。それから、クラスではその絵本が大人気に。まだ字が読めない1歳児同士が、セリフと内容を全て覚えて、読み聞かせ合いをする姿もあった。

 文香さん自身も、不安や悩みを感じた時は、本を読んで気持ちを落ち着かせた。夫が仕事にしていた「本」に、何度も救われた。15年には同グループに加わり、16年夏には図書館司書の資格を獲得した。4月には陸前高田市に新居を移すため、同市内で図書に携わる仕事を探している。

 信弘さんの思いも背負っていくつもりだ。「仕事でやり残したこともあると思う。『主人の遺志を継ぐ』なんて軽々しく言えないが、本を通して、子どもたちにいろんなことを学んでもらう力になりたい」。【太田皐介】