新型コロナウイルスの集団感染が発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客で、ウイルス検査が陰性だった約500人が19日、下船した。検疫下に置かれた5日から2週間が経過し、乗客には公共の交通機関での帰宅が認められた一方、米国の乗客は帰国後も2週間、隔離状態と対応が分かれた。その中、新たに79人の陽性が判明。下船した埼玉県の60代男性が日刊スポーツの取材に応じ、対策が後手に回った日本の対応を「どうしようもない」と批判した。

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下船した乗客たちはマスクを着け、帽子を目深にかぶるなどして客船ターミナルから外に出た。埼玉県の男性も妻とともに正午すぎに下船。英国籍の船から入国するため、乗客は下船時に旅券を提示し、検査陰性の証明書、下船後の行き先を書いた書面を提出し、皮膚表面の温度を測るサーモグラフィー検査を行った。下船後はバスでターミナル駅に移動して公共交通機関を利用したり、タクシーを手配し帰宅した。

男性は事前に送り先に指定された横浜駅までバスで移動し、到着後はJRの在来線で帰宅した。同じ船から下船し、帰国後も2週間、隔離される米国の乗客と対応が違うが、男性は陰性の結果が出たのが下船前日18日夜だったこともあり「(JRに乗る)心配はなかった」と語った。

一方で、検疫を受けたのは下船4日前の15日で、その後も船内の指定されたデッキでの散歩は行い、他の乗客と会話していた。男性は「(下船までの)4日間に感染の可能性はあると思った。本当にいいの? と思ったし、何かが起これば19日に下船できないんじゃないかと思った」と不安があったことを明かした。その上で「船はバルコニー以外、窓が開かない上、7日あたりまで空調は船内の空気を回していたようだ。船1カ所に乗客をとどめるんじゃなく、外部に分散すべきだった」と指摘した。

また18日夜、通関と健康に関する書式を配布すると連絡があったが配布されなかったという。男性は電話で3度、問い合わせたが「後でお持ちします」「朝、配ることになる」「下船時に4階の出口で配る」と回答が二転三転した上、結局は配布されず。提出しないままだったが下船できた。男性は「政府と厚労省が根本的にまとまっていないから船が混乱したのでは?」と疑問を呈した。

1日に香港人の男性乗客(80)の感染が発覚し、3日に横浜港に戻って開始した検疫も、男性乗客との濃厚接触者と体調不良を自己申告した273人のみ検体を調べ、それ以外は体温を測るだけの簡素なものにとどまった。男性は「時間がかかっても、最初からしっかり検疫をやるべきだと違和感があった。国の対応はどうしようもない」と批判した。

男性は当面の間、人混みが多い場所には行かないよう、自主規制をし、2人の孫にも会わないようにするという。ただ、船側に対しては「一生懸命によく対応したと思う」と評価。今回のクルーズ代金と同額のクレジットを付与されるが「また乗りたいと思う。トラウマは全然ない」と語った。【村上幸将】