藤井聡太王将(20)が初防衛を目指して国民栄誉賞棋士・羽生善治九段(52)の挑戦を受ける、将棋の第72期ALSOK杯王将戦7番勝負第4局(東京都立川市「SORANO HOTEL」)は10日、先手の羽生が主導権を取って快勝し、対戦成績を2勝2敗とした。これで第4局までお互いに先手番をキープ。藤井は2日制7番勝負で初めて2勝2敗で折り返し、シリーズ後半を迎えることになった。第5局は今月25、26日、島根県大田市「さんべ荘」で行われる。

【ひふみんEYE】藤井聡太王将の封じ手意外 後手番3連敗だけに、第5局の先手番でどう戦うか?

羽生が攻撃の手を緩めず、積極的に踏み込んだ。再開直後から意表(苦心)の受けや粘りでしのごうとする藤井に対し、時間を使ってしっかり対応した。持ち時間各8時間のうち、初日に5時間15分も消費した藤井に対し、羽生は2時間7分。この時間差が終盤の攻防で生きた。

第3局までお互いに先手番をキープして1勝2敗で迎えた第4局。負ければかど番に追い込まれる大事な一番。あえて角換わり腰掛け銀を採用した。盤の向こうの史上最年少5冠は、2020年(令元)6月のタイトル戦登場以来、千日手指し直しも含めて過去54局で最多の25局を角換わりで指している。命運を託して正々堂々、あえて相手の得意戦法へと飛び込んだ。往年の踏み込みを久々に披露した。

埼玉県所沢市で生まれ、4歳のころに東京都八王子市に引っ越した羽生にとって、同じ多摩地区の立川は準地元。昭和記念公園に家族で日帰りで遊びに来たこともあるという。凱旋(がいせん)の意味合いも強い場所で、第2局に続いて追いついた。

タイトル獲得99期(竜王7、名人9、王位18、王座24、棋王13、王将12、棋聖16)のレジェンドは、将棋を「凝縮の美」と称する。五七五で表現する俳句、三十一文字(みそひともじ)に思いを込める短歌などの文化、トランジスタやMD、IC回路に代表される産業とともに、「81マスの中に無限の可能性がある。それが将棋の魅力であり、奥深さ」とも言っている。王将戦では、それを十二分に発揮している。

将棋文化の発信者は、趣味でスポーツもよく観戦する。特にテニスが好きだ。サービスゲームを先手番にたとえると同時に、「後手番にあたるレシーブ側が、どのコースにどんな強さで打ち返してブレークなど、参考にしています。後手番でも確実に勝てるようにならなければ、タイトルは獲得できませんから」と話したことがある。

シリーズは折り返し地点を過ぎて、面白くなってきた。第5局は後手番。敗れはしたが、開幕局は一手損角換わり、第3局は雁木(がんぎ)と趣向を凝らしてきた。次は何が飛び出すか。はまって藤井の先手番をブレークすれば、タイトル獲得通算100期が見えてくる。