着順が確定し、表彰式も終わった。共同会見の場に立っても、林徹師(43)はソングラインと成し遂げた仕事の大きさを実感できずにいた。「まだ地に足が着いていない感じで、どう表現したらいいかわからないです」。東大卒の師をもってしても、適当な言葉が見つからない。開業5年目のG1制覇はとろけるほどの喜びを連れてきた。
最後まで気が抜けなかった。1年前のNHKマイルC2着があったから。あの時、ソングラインはゴール寸前で内に寄れた。たった鼻差。つかみかけた勝利がこぼれ落ちた瞬間は頭にこびりついていた。今回はゲートを出て、中団後方に陣取った。まれに発馬のタイミングが合わないことのある馬。「(レースは)半分見ているようで、半分見ていないようで…」。双眼鏡越しに第1関門をクリアした姿を見届けると、無事と結果を求める思いが胸を占めていった。
「サウジアラビアの遠征を通して、新しい環境、慣れない環境で過ごすことによって精神的にどっしりしてきました。ヴィクトリアM、安田記念の追い切りの中でも直線で抜けてからも集中して走れるようになっていました。着差以上に勝負強かったのは、そういうところなのかなと思います」
牡馬相手。そして、G1連戦。挑戦者として、攻め抜く決断をした。前走時でも好調宣言をしていたが、求めたのはさらに上。「状態をキープというよりも挑戦者の立場なので、もう1歩踏み込んだ調教をしようと心がけました」。
強敵撃破は慎重な状態見極めの上で成立した。「手をかければ、馬は必ず応えてくれる」。東大馬術部時代に担当馬が教えてくれた。その考えは今でも、師の管理馬に対するベースとなっている。この中間も厩舎スタッフだけではなく、獣医師、装蹄師、牧場とチーム全体にアドバイスを求めて、馬を仕上げた。ヴィクトリアMから中2週の厳しいローテで安田記念制覇。馬が結果で応えてくれた。
両親の反対を押し切って飛び込んだ競馬の世界。2人は今では最高のサポーターだ。この勝利を喜んでいるに違いない。「この世界に入ってからものすごく応援してくれて、いつもテレビの前でかじりつくように見てくれています。おやじ、オカン、やったよ! と伝えられたらいいですね」。話し終えると、少しずつ勝利の実感がわいてきたようだった。

