勝負師に導かれたG1制覇だ。池添謙一騎手(42)騎乗の4番人気ソングライン(牝4、林)が外から豪快に差した。勝ち時計は1分32秒3。ヴィクトリアM5着から中2週で逆転劇に成功し、待望のG1初勝利を飾った。

林徹師(43)にとっても初のビッグタイトル。混戦のマイル界を引っ張る新たな女王が誕生した。

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祈りが通じた。池添騎手はソングラインの馬上で願った。「全部、かわしてくれ」。選んだ進路は4角大外。1列前には脚色の衰えないサリオスがいる。直線勝負。信じて追った。残り1ハロンでのムチ連打に、馬が応えてくれた。「もう1段階ギアが上がりました」。馬群内を抜けてくる同じ勝負服のシュネルマイスターの猛追はわからなかった。この馬とG1を勝ちたい-。気持ちが届いた。

大舞台でこそ輝く男が本領発揮した。前走ヴィクトリアM5着の負けは悔やんでも悔やみきれない。池添騎手は「前回は本当にうまく乗れなかった」と振り返る。3角で馬群内に入れたことでつまずき、立て直すロス。脚を引き出せなかった反省を力に変えた。3角までに外のサリオスに位置を譲り、いつでも外へ出せる中団後方を選んだ。「林厩舎と一緒にG1を取りたいと思っていた。自分はG1でこそだと思っている」。G1・27勝目。JRA重賞92勝のうち、約3割がG1。真骨頂とも言える思い切りの良さが、初タイトルをもたらした。

攻めに転じた牡馬相手の逆転劇だ。ヴィクトリアMから中2週の厳しいローテを乗り越えた。林師は「挑戦者の立場」と見据えていた。レース後の反動がないと確認するやいなや、翌週水曜から馬場入りを開始。追い切り以外の調教でも1ハロン1秒ほど負荷を強めるなど究極を求めた。「中に入っていると分からない部分もある。客観的に見ている方のアドバイスは非常に有益ですから」。獣医師、牧場、装蹄師の助言も仰ぎ、チーム一丸で勝利をつかんだ。

昨春のNHKマイルCではゴール寸前に内によれて、2着に敗れていた。脳裏にこびりついていた悪夢は消え、同じ東京マイルの舞台で最強マイラーの称号を手にした。G1初勝利となったトレーナーは「レースも半分見ているようで、半分見ていないような…」と夢見心地だが、今後は挑戦を受ける側となる。池添騎手は「体の面では完成の域だと思います。まずゆっくり休んで、秋を楽しみにしたいです」と期待を込めた。待望のG1制覇。新時代が幕を開けた。【松田直樹】

◆ソングライン ▽父 キズナ▽母 ルミナスパレード(シンボリクリスエス)▽牝4▽馬主 (有)サンデーレーシング▽調教師 林徹(美浦)▽生産者 ノーザンファーム(北海道安平町)▽戦績 11戦5勝(うち海外1戦1勝)▽総収得賞金 4億4166万9300円(うち海外1億352万9300円)▽主な勝ち鞍 21年富士S(G2)、22年1351ターフスプリント(G3)▽馬名の由来 オーストラリアに伝わる道の名。祖先の足跡