「あの馬には本当に勇気をもらったから…」「こんなことって本当にあるのかなって…」「たくさんの人に見てもらって、ファンを喜ばせてほしい…」。

函館競馬場で誘導馬として活躍するクリンチャーを現役時代に担当していた宮本厩舎の長谷川万人(かずひと)調教助手(53)。今夏は函館へ出張することになり、さっそく乗馬センターにいるクリンチャーに会ってきたそうです。22年の暮れに現役を引退し、誘導馬デビュー前に会いに来たことはあったものの、誘導馬になってから会うのは初めて。3年ぶりの再会でした。乗馬センターの少年団の練習ではとてもおとなしいクリンチャーが、長谷川助手に近づくと、周囲の人たちがびっくりするくらい大きな声でいなないたそうです。

現役時代はしぶとい走りで多くのファンを魅了したクリンチャー。記者が長谷川助手を初めてじっくり取材させてもらったのは17年の菊花賞ウイークでした。歴史的な悪天候の中で行われた菊花賞で2着に入り、翌年には京都記念で重賞初制覇。4歳春の天皇賞で惜しい3着に敗れた後、秋は武豊騎手とのコンビで凱旋門賞に挑戦しました。記者も現地で取材させてもらいました。6歳シーズンからダート路線に転向すると、重賞を4勝。帝王賞3着、東京大賞典2着など、G1タイトルにはあと一歩、手が届きませんでしたが、国内外で36戦、無事に走り抜きました。22年の暮れに現役を引退したクリンチャーは23年の夏から函館競馬場で誘導馬となっています。

「クリンチャーが誘導馬でデビューするとき、ケガの手術で入院していて、クリンチャーが頑張っていると聞いて、励まされていたんです」。今はケガのため、騎乗を控えている長谷川助手ですが、3年半ぶりにクリンチャーにまたがりました。誘導馬になり、体形や筋肉の付き方などは替わっているようですが、栗東トレセンで、フランスのシャンティイの調教場で見てきた馬上からのクリンチャーの姿に、また勇気づけられたそうです。見せていただいた写真の長谷川助手は心の底からうれしそうな表情でした。

クリンチャーが誘導馬デビューした当時、凱旋門賞に出走した馬がJRAの競馬場で誘導馬になることは史上初。「オーナー(前田幸治氏)や先生(宮本師)のおかげで、素晴らしい経験をさせてもらいました。パリロンシャン競馬場で多くの人が応援してくれたことも忘れられません。G1を勝たせることはできなかったけど、クリンチャーのことを少しでも多くの人に知ってほしいです。こんな素晴らしい馬が函館競馬場にいるんだって多くのファンに見て、喜んでもらいたいです」。

先月20日、夏の函館開催3日目の未勝利戦を長谷川助手の担当するコイタマチャンが勝ちました。鞍上は凱旋門賞をともに戦った武豊騎手。口取り写真撮影のときにレジェンドは、宮本師と長谷川助手に「誘導馬のおかげで勝てました」と伝えたそうです。コイタマチャンが勝ったレースの誘導馬にはクリンチャーの姿がありました。

今月は宮本厩舎のヴェルテンベルクが英国のキングジョージ6世&クイーンエリザベスSに挑戦します。「僕もまたいつか海外に挑戦したい」。クリンチャーと感動の再会を果たした長谷川助手、熱い思いを語ってくれました。【木南友輔】