パリオリンピック2024が始まった。テレビやラジオのオリンピック中継からは、熱戦の感動を増幅させてくれる数々の名実況が生まれている。NHKを中心に、夏のオリンピックの記憶に残る名実況を振り返ってみた。(敬称略)

◆36年ベルリン大会(ドイツ)

「前畑がんばれ!前畑がんばれ!」(NHK河西三省=さんせい=アナウンサーのラジオ実況)

前畑秀子(当時22)が水泳女子200メートル決勝で日本人女性初の金メダルを獲得した時の熱烈実況。最後の50メートルで「前畑がんばれ!」を、ゴール後は「前畑勝った!」「勝った!」を何十回も繰り返した。今でも語り草の実況である。

◆52年ヘルシンキ大会(フィンランド)

「どうか古橋を責めないでやってください」(NHK飯田次男アナウンサーのラジオ実況)

競泳男子400メートル自由形決勝で、期待の古橋広之進は8位と敗れた。「フジヤマのトビウオ」として戦後日本のヒーローとなっていた。敗戦国だったためオリンピック出場は16年ぶりで、古橋はピークを過ぎていた。飯田アナは「古橋の活躍なくして、戦後の日本の発展はあり得なかったのであります」と涙で続けた。

◆64年東京大会(日本)

▼「世界中の青空を全部東京に持ってきてしまったような、素晴らしい秋日和でございます」(NHK北出清五郎アナウンサーのテレビ実況)

▼「開会式の最大の演出家、それは人間でもなく、音楽でもなく、それは太陽です」(NHK鈴木文彌アナウンサーのラジオ実況)

前日の大雨がうそのような快晴の東京・国立競技場で行われた開会式の模様を、テレビとラジオそれぞれが見事な表現で伝えた。

▼「いよいよ金メダルポイントであります」(同鈴木文彌アナウンサー)

女子バレーボール決勝の日本対ソ連。東洋の魔女と称された日本が、悲願の金メダルまであと1点というクライマックスを伝えた有名なテレビ実況。本来はマッチポイント。

▼「そこには国境を越え、宗教を超えました美しい姿があります。このような美しい姿を、見たことはありません。まことに和気あいあい、呉越同舟。(略)まことに、和やかな風景であります」(NHK土門正夫アナウンサー)

閉会式で「オリンピックとは何か」を伝えた伝説の名実況。開会式と同様に整然と行われる段取りだったが、途中から各国の選手が混然一体となり、国旗を振り、肩や腕を組んで笑顔で入場した。その光景を、オリンピックが平和の祭典で、世界は1つであると、自分の言葉で伝えた。

◆76年モントリオール大会(カナダ)

「笑顔の優勝です。泣かない優勝です」(NHK西田善夫アナウンサー)

女子バレーボール決勝で、新・東洋の魔女と言われた日本がソ連を破って、東京大会以来12年ぶりに金メダルを獲得した。過去ほとんどの優勝者、優勝チームは泣いていた。泣かないという時代と世代の変化を、見事に表現した。

◆88年ソウル大会(韓国)

「ベン・ジョンソン、筋肉の塊」(NHK羽佐間正雄アナウンサー)

陸上男子100メートル決勝で、スタート直前のベン・ジョンソン(カナダ)を描写した。9秒79の世界新記録で圧勝したが、競技後のドーピング検査で陽性反応が出て、世界記録と金メダルは剥奪。カール・ルイス(アメリカ)が優勝となった。“予知”していたかのような実況だった。

◆92年バルセロナ大会(スペイン)

「高野は世界の8位」(工藤三郎アナウンサー)

陸上男子400メートル決勝で、高野進は60年ぶりとなる短距離種目での日本人ファイナリストとなった。高野は8人中8位だった。工藤アナは、3回目のオリンピックで初の決勝に進んだ31歳高野の長き努力を「世界の8位」と表現した。結果ではなく、過程をたたえる名実況と言われた。

◆04年アテネ大会(ギリシャ)

「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ」(NHK刈屋富士雄アナウンサー)

体操男子団体で日本が28年ぶりの金メダルを確定させた際の名フレーズ。当時のNHKオリンピックテーマソング「栄光の架橋」(ゆず)との相乗効果で、記憶にも歴史にも残る名実況となった。

◆12年ロンドン大会(イギリス)

「探していた、見失っていた光は、ロンドンの風の中にありました」(NHK広坂安伸アナウンサー)

女子バレーボール3位決定戦で日本が韓国に勝利し、84年の米ロサンゼルス大会以来28年ぶりのメダル(銅)を獲得した。復活までに長く苦しい時間があったことを、ポエムのような表現で感動的に伝えた。

◆21年東京大会

「13歳、真夏の大冒険」(フジテレビ倉田大誠アナウンサー) スケートボード女子ストリートで、金メダルを獲得した西矢椛のフィニッシュ場面で生まれた名実況。真夏の五輪で輝いた若きアスリートの偉業を、見事に伝えた。

※倉田アナはNHKと民放で構成するジャパンコンソーシアム(JC)の一員として実況を担当した。

パリオリンピックで、どんな名実況が生まれるか。楽しみである。【笹森文彦】