中止しない理由は複数あるが、世界的に見れば感染を抑え込んでいる日本で「なぜオリンピック(五輪)が開催できないんだ」というのがIOCの本音だ。国際社会から見ても、現在の感染状況で中止に転じたら日本の信用問題になるという見方もある。

金銭的な問題もある。IOCは中止した場合、膨大な放映権料を手放すことになる。収入の約7割を放映権料から得ているIOC。米放送局CNNによれば、東京五輪から夏冬10大会の合計で約1兆2700億円の放映権料という。

IOC関係者によると損害保険には加入しているが、全てを賄いきれるかは定かではない。IOCは収入の9割を各国オリンピック委員会(NOC)、各国際競技団体(IF)に分配している。収入源が乏しいNOCやIFは分配金が入らなければ厳しい経営体制を強いられることになる。

「金もうけのための五輪」と批判する声もあるが、逆に公金に頼ると今度は「スポーツ界は税金に頼ってばかり」と批判される。自活するために世界のスポーツ界がたどり着いた現在の仕組みでもある。

一方、国内では政局に五輪の開催可否が使われている。都議選(6月25日公示、7月4日投開票)と、今秋にも行われる総選挙に向けて国会もその様相。だからこそ菅首相、小池知事には、選挙に依拠しない冷静な判断を期待したい。政府関係者は「五輪が中止となれば政権は持たないだろう」と語った。官邸筋によると、菅首相は開催可否について私情を挟まず科学的根拠に基づいて情報収集しているという。だからこそ開催可否や観客上限の判断基準となる科学的根拠を示すべきだ。

都議会、国会ともに与野党が来る選挙のために開催可否を“ネタ”にしようとしている。先月28日には都議会第1会派の都民ファーストの会が「再延期論」を幹事長談話で発表した。会派の立場上「開催」とも「中止」とも言えないから、小池知事も組織委もIOCも否定し「ありえない」とされる再延期を選挙のために持ち出した。賛否の対立をあおっているだけで、まさに「選挙ファースト」だ。

緊急事態宣言が今月20日まで延長されたことで、観客上限数の判断は宣言明けとなる方向。組織委の橋本聖子会長は最近「サッカーや野球などが観客を入れている中、五輪だけ無観客なのもどうか」と話している。しかし、それらは基本的に地域の観客。五輪で東京に参集する人流はその比ではない。感染防止のためには慎重な判断が求められる。【三須一紀】