◆極限の二者択一

 1995年の高松宮杯・決勝で大本命に推された神山雄一郎は、別線で動く三宅伸を逃がしてまくり勝負に出る公算が大きかった。神山と三宅には、それぞれ援軍が3人。浮き駒の高橋光宏は、どちらに味方しても5番手となる。

 筋を通すには関東同士の神山ラインに付くべきだが、神山がまくりに構えれば、高橋は最終周回しんがりの9番手に置かれること必至。同じ5番手なら、逃げる三宅ラインに乗った方が、より上位の着順を狙いやすい。決断の時が迫ってきた。

◆明日を見据えて

 高橋は、神山ラインを選択。援軍4人となる神山に、最終周回5番手からまくってもらうことにした。もし三宅ラインに付けば、神山は6番手に下がる。自転車1台分、わずか2メートル。とはいえ、ゴールでは数センチ差の勝ち負けが頻発する競技だけに、大きな不利だ。

 ラインは同地区の選手で組む機会が圧倒的に多いから、他地区の選手に恩を売っても見返りが来る可能性は低い。高橋は、今後を生き抜くためにポジションを定めた。最悪の展開が待っているにもかかわらず。それは神山に対する、敬意の表れでもあった。【藤代信也】