これまではさまざまなクラブを財政面からのぞいてきましたが、このクラブを避けて通ることはできません。今回はマンチェスターシティ(C)にフォーカスしてみたいと思います。

このクラブは永遠のライバルチームでもあるマンチェスターUから2年遅れた1880年に創設され、2008年にUAEの投資グループに買収されるまでは基本的には「あまり強くない」チームでした。確かに筆者がフットボールのビジネスに興味を持ち始めた2000年前後も現在のような位置ではなかった記憶があります。

このクラブは2007年にタイのタクシン首相(当時)が会長になり、すぐにUAEの投資グループに売却されたわけですが、このあたりから巨大な財政を背景にチームが変わります。毎年のように大型補強を繰り返し、その額は総額で一体いくらになるのかというお金を使ってきたわけですが、中でも他のクラブと大きく異なった部分がありました。これがシティ・グループ構想なのです。

アブダビの投資グループの傘下にいわゆるフットボール事業グループを構成し、ニューヨーク、メルボルンといった主要都市のチームの持ち株会社になることでチームを子会社化し、世界的なネットワークを形成しています。横浜F・マリノスもその1つとして数えられ、約20%の株式を保有しています。

シティ・グループの思惑は一体どこにあるのか?という部分が一番鍵になると考えられますが、耳をすましてみるとやはりFIFAファイナンシャルフェアプレー(FFP)によって抱えきれない金の卵たちをグループ内で囲っておくための措置という声が聞こえてきます。

前回のコラムで書いた、チェルシーがうまくいっていない理由は、世界中から集めた金の卵をふ化させるべくローンという形で保有してはいますが、あくまでもチェルシーがその利権を握っていることになります。これを他の身内のチームに対応させることで、マンチェスターシティが権利を保有せずにその選手を保有しているという構図が出来上がります。さらに、身内(グループ内)でプレーさせることでその利権を囲うだけでなく、選手の特性や可能性までじっくりと見ることができますから、グループに所属しているということだけで将来性に可能性を感じてしまうことでしょう。

ちなみにですが、現在の監督はバルセロナ出身のグアルディオラ。CEOのフェラン・ソリアーノもバルセロナの前副会長。強化部長としては日本でもおなじみのチキ・ベギリスタイン、これもまた元バルセロナという形で就任。まるでバルセロナで自分たちができなかったことをやるため?と言わんばかりに巨大な財力を背景に暴れまわっているわけですが、ピッチの上ではなかなか思うような結果に結びついていない感もあります。

シティ・グループのうまいところ、つまりパリサンジェルマンやユベントスと少しだけ毛色が違うと感じるところが、フェラン・ソリアーノをCEOに添えたところであるとみています。2003年から2008年まで副会長(最高責任者)として名門バルセロナのチーム運営に携わり、長く低迷していたチームを再建するだけでなく、収益的にも拡大に成功させた男です。今では全世界のクラブがバルセロナの作り上げたモデル・体制を例・目標に掲げ、模倣に躍起になっている事は言うまでもなく、まさにヴィッセル神戸もその1つであると思います。

財政面の強さはいうまでもなくもちろんのことFFPの対策でもありますが、彼が掲げているのが次の3大要素であります。

(1)持続可能な利用資源への投資

(2)選手補強と選手育成

(3)アカデミーとトップチームの連携

FFPを回避するための収支整理だけでなく、次のステージを見据えた動きができる手腕を持っているのは、世界を見渡しても多くありません。

事実、シティの施設を見て回れば、考えられないほどの充実さであり、ついにそのステージにアジア人(板倉滉選手)がたどり着いたのかと思えば感慨深いものあります。この10年間チャンピオンズリーグを中心に、フットボール界を制してきたスペイン2大クラブにアジア人が主力選手として絡むことも時間の問題であるように感じます。

シティ・グループとしてマリノスがどのように再建されるのか、そして以前のマリノスタウンを超える、日本が世界に誇る施設が建設されるのか期待が膨らみます。シティ・グループの出現は、目に見えるところ・見えないところの整理・バランスを保つことが改めて重要になっていることが認識できるトピックスでもあると感じます。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)