前回も記述しましたが、本来であればフットボールの放映権収入はコロナ禍によってより価値が高まっているはずです。試合会場に行くことができず、テレビもしくはオンラインでしか見ることができないためです。ただ、全世界的なパンデミックにより、一般顧客の収入がおびやかされたことで事態は変わり、放映権ビジネスが成立していない現状となっております。

そのような中、ラ・リーガが年始早々2019-2020シーズンのテレビ放映権収入額を発表いたしました。リーガ1部は前年対比でマイナス230万ユーロ(約2億9千万円)と発表されており、コロナの影響が反映される形になりました。チーム別で見てみるとこの放映権収入が多かったトップ3はリーグ同様お決まりの3チームで、以下のようになっております。

1位 バルセロナ  1億6500万ユーロ(約206億円)

(前年比マイナス100万ユーロ)

2位 レアル・マドリード  1億5620万ユーロ(約195億円)

(前年比プラス90万ユーロ)

3位 アトレティコ・マドリード  1億2420万ユーロ(約155億円)

(前年比プラス500万ユーロ)

最新のルールでは前年度の順位だけでなく、チケット販売数、SNSフォロワー数などが反映されるために2、3位のチームは前年対比でプラスになっています。放映権だけで1チームに180億円前後の収入があるのは、やはりチーム運営サイドからしてみれば非常に大きなものであることには間違いありません。しかしこの放映権収入、2011-12シーズンは、レアル・マドリードで約2億ユーロ近い収入があったことが報告書から確認されているので、大きな減収です。これは2015年にラ・リーガの現会長であるハビエル・テバスが取り入れたリーグ改革の1つでもある、放映権分配制度の影響になります。当時は各クラブが映像会社と個別交渉を行なっておりました。それがスペインプロリーグ機構の一括管理へと移行され、1部リーグには総収入の90%、2部リーグには10%が分配されることになりました。1部ではその分配されたうちの半分である50%が均等に分配され、残りの25%が過去5シーズンの結果、そして25%がチケット売り上げやSNSフォロワー数や視聴者数などによって比率が変更されるというものになっております。

 地方の小さいチームにとってみれば非常に大きなものとなり、選手の補強はもちろんのこと、多くのインフラ整備にその収入が使用可能なことから、そのリーグの図式はこの3、4シーズンで大きく変わりました。実際に私も現地に住んでいるときには5点差以上の試合を何試合か目にしましたが、今はかなり減ったという感覚があります。その5点以上スコアリングした試合数でレアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコのトップ3チームを見てみると、分配制度開始前と後で大きな差が見て取れます。

2011–12 La Liga 5得点以上スコアした試合数:12試合(4点獲得試合は15試合)

2018–19 La Liga  5得点以上スコアした試合数:2試合(4点獲得試合は2試合)

(※3チームの合計試合数)

戦術的な進歩なども考慮されるべきではありますが、この比較からも4得点以上記録している試合数が年間通して減少していることがわかります。前述の通り、補強費用が捻出可能になったことから中下部チームのレベルが上がり、上中位チームとの拮抗した試合が多くなっているということでもあります。CLの試合数増加など当時と比べて多くの違いはあるものの、単純にリーグ戦における試合でも上位チームが引き分けたり負けたりする試合が多くなっています。

このリーグ一括方式によってリーグそのものの拮抗性が強まり、上位チームに偏った戦力過多という状況は薄らいできております。拮抗性が強まることで特に地方のチームや中下部のチームはファンがスタジアムに足を運ぶことが多くなり、そしてそのエンターテイメント性が高まっていることにつながるというメリットがあります。一方でトップ3チームにしてみれば自分たちが汗水たらして稼いでいることになる放映権を中位下位のチームに取られるような見え方はやはり気持ちの良いものではありません。こういった背景もあり、より独自の収入につながるということで各国リーグの上位チームのみによって構成される“スーパーリーグ構想“が生まれてくるわけでもあります。

各クラブ・各国によって様々な見方ができますが、リーグにおけるチーム格差を少なくし、競争力を高めるからこそエンターテインメント性が高くなっているのは確かだと思います。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)