イングランドがPK戦の呪縛から解放された。コロンビアと1-1で迎えたPK戦を4-3で制した。PK戦はこれまでワールドカップ(W杯)で3回全敗など鬼門。サウスゲート監督も、96年欧州選手権で最後のキッカーとして失敗し「戦犯」となった。その歴史もあって今回は十分に準備、研究して迎えていた。66年大会以来2度目の優勝を目指すサッカーの母国が、弾みのつく形で06年大会以来の8強入りを決めた。

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 イングランドがPK戦に弱かったのは、サッカー(フットボール)の「母国」だからだ。FIFAは競技発祥の地を中国としているが、現在の競技ルールが制定されたのは150年前のイングランド。「母国のプライド」が、PK戦への適応を遅らせた。

 1000年以上前、イングランドで行われていたのは「モブ・フットボール」という暴力的な球技。村や町単位で、相手陣にボールを運ぶ「祭り」だった。決着をつけるため、数日かけることもあった。今でも、90分で同点なら決着をつけるために「再試合」をするのがイングランド流だ。

 70年に世界初のPK戦が行われたのはイングランドだったが、積極的に取り組む姿勢はなかった。日本の天皇杯にあたる「FA杯」も、基本は再試合。最近は過密日程のため準々決勝以降に導入されたが「競技の本質とは違う」と、合理的な決着方法を嫌う根強い考え方があるのも事実だ。

 負け続けている危機感なのか「母国」の意識も変わってきた。独自ルールにこだわった柔道の全日本選手権が国際ルールを導入したのにも似ている。伝統や歴史を捨てて新しいルールに適応しないと、今の大会では勝てない。【荻島弘一】