もっと強く、もっと愛されるチームになるために-。
3月8日は「国際女性デー」。75年に国連が提唱し、77年に国連総会で議決された。その歴史をたたえるとともに、女性がどのように活躍できるのかを見つめ直す日でもある。
2月中旬。アイスホッケーで長年にわたって活躍した久保英恵さん(40)と、女子7人制ラグビーの第一人者の中村知晴(34=ナナイロプリズム福岡)の対談が実現した。
2人の共通点は女子のチームスポーツをずっと支えてきたこと。年長者として、どのように後輩の選手たちと関わってきたのかに迫った。
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■「久保さんの試合を…」 日本代表で活躍してきた2人
競技も年齢も異なれど、共感は絶えなかった。
久保さんが勤務している東京・太陽生命日本橋ビル。スーツ姿の2人は何度もうなずき、笑い合っていた。
久保 同じ女性だと、後輩選手が考えていることも分かるので「あ、これ絶対にサボってるな」とか、そういうのは感じますよね。
中村 そうですよね!
久保 ですよね! そういう時はちょっと強めに言って、やらせることもあります。きっと選手は、それを待っているので。
2人はすぐに打ち解け合い、会場は温かな雰囲気に包まれた。
競技歴に長短こそあるが、ともに「日本代表」とは密接な関わりがある。
4歳から競技を始めた久保さんは、14年ソチオリンピック(五輪)に初出場し、そこから3大会連続で五輪の舞台に立った。22年北京五輪では日本女子史上初の決勝トーナメント進出に導き、同大会限りで現役を退いた。
久保 私の中では濃いアイスホッケー人生でした。
一方の中村は、大学までバスケットボールに打ち込んでいた。16年リオデジャネイロ五輪から、女子7人制ラグビーが正式種目として採用されると知り、競技転向を決断。そのリオ五輪には主将として出場した。今も現役を続け、22年9月のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会では、過去最高の9位に貢献した。
実は中村は16年の五輪予選前に、久保の試合を見るために苫小牧へ訪れたことがあった。
中村 ラグビー協会の広報の方に「久保さんの試合を見たほうがいい」ということで、苫小牧へ連れて行っていただきました。メディアの皆さんに囲まれる久保さんの様子を見ながら「オリンピックに出るというのはこういうことだぞ」と協会の方に教えていただいて。その立ち居振る舞いを目に焼き付けました。
39歳まで現役を続けた久保さん。その姿を追うように、34歳になった今もグラウンドを駆ける中村。年齢を重ねるにつれ、「日本代表」には年下の選手が増えるようになった。
■「タイミングと誰が言うのか」後輩選手への声かけ
年長者として、どう声をかけるべきか。中村は女子チームならではの特性を感じている。
中村 一般的にではありますが、女性のほうが共感力が高いって言われたり、平等に関して敏感だったりという実感はあります。「あの子だけお気に入りだ」みたいなことを耳にすることもありますよね。そういうところは、すごく見ているなと感じています。
共感力の高さは、チームに強い結束をもたらすことがある半面、取るに足りないことから不協和音が生じることもある。
久保さんは自分の発言の影響力を理解し、声のかけ方に気を使っている。
久保 私がパッて一言言えば終わるんでしょうけど。でもやっぱり、やんわり言わなきゃいけないこともあります。メンタルが落ちている子には、私ではなく、もうちょっと下の世代の選手に言ってもらったりもしますし、その選手と同世代のメンバーに声をかけてもらったりする工夫をしています。
同じ言葉であっても、誰にいつ伝えられるのかによって、受け手の解釈は変わる。中村は「すごく聞き入っちゃいました」と笑みを浮かべながら、久保さんの手法に同調する。
中村 私もタイミングと誰が言うのかは気にするようにしています。それから、そもそも自分自身が選手からリスペクトを勝ち得ていないと響かない言葉があると思うので、まずは「今の自分がこの子に言っても大丈夫なのかな」と思うようにはしています。
■「ピエロのように…」“どう見られるか”が大切
ベテランになると、指導者との関係が近くなる一方で、若手選手との距離が開きやすくなることもある。気を使われる立場になり、自分のあずかり知らないところで“忖度(そんたく)”を受けることもある。
中村はその場の空気を察しながら、適切な振る舞いを見極めるようにしている。
中村 しゃべりすぎないようにとか、イジられるようにとかしています。監督やコーチによって、組織ごとに足りないピースは変わってくるので、自分が足りないピースを埋められるようにと思っています。あえて言わなきゃいけない時は言いますし、イジられたほうがいい時はピエロのように(態度を)変えています。
久保さんは「私は言葉にしたりするのが難しくて」と苦笑いを浮かべる。あまり口出しはせず、背中で示すことを大切にしてきた。
久保 練習でも試合でも、調子の好不調はあるけれど、その波の高低差がなるべくないよう、常に高いレベルで自分のプレーを持っていくようにしていました。人間なので調子が悪い時も絶対にあるんですけど、いつも見本になるようなプレーを心がけていました。
共通するのは「どう見られるのか」ということ。自らが与える影響力を想像し、適切な言動に努めている。
■スキルを試合で生かすため…「もう1つの選択肢を」
日本代表である以上、もちろん勝つことが目標になる。
久保さんは現在の若手選手を「与えられたプレーはできる」と評価しつつ、ある特徴を感じ取っていた。
久保 ゲーム全体をなかなか見ることができていないように思います。私たちの世代と比べると、シュートやパスなどのスキル1つ1つはものすごく上手なんです。ユーチューブを見たりして、スキルのトレーニングはすごくやっているので、私たちよりも技術は数段上です。ただ、ゲームではなかなか実践できない。空間で生かす練習をしていないからだと思います。
中村もその着想にうなずきながら、言葉を続ける。
中村 (ラグビーも)かなり似通っていると思います。今はスキルに関して得られる情報量が多い分、めちゃくちゃ上手なんですけど、経験値は世界との差があると感じます。
スキルをなかなか試合で生かすことができない現状。そこで久保さんが大切にしているのが、選手に考えるクセを身につけさせる声かけだ。
久保 ダメなことをダメと言うのは簡単ですが、今の指導の仕方としては「どうしてそのプレーをしたのか」「どういう考えでプレーしたのか」を聞くようにします。私が正解をパッと言わず、(相手に)考えさせるようにしていて。選手からの回答を踏まえて「それだったら、こういう風にしたらいいんじゃない」と言っています。もう1つの選択肢を与えてあげるようなアドバイスをするようにしています。
久保さんの言葉に対し、中村は真剣な表情で耳を傾けていた。
■「愛される選手に」-2人が願うアスリート像
あらゆる方法でチームを引っ張り続けた2人には、願うアスリート像がある。
久保 周りを見ることができるようになると、日常生活でもいろんな気付きがあります。チーム内で気を使える選手は、日常でも気を使えると思います。
中村 ラグビーでも、周りを見ることができる選手は普段から周囲を見ることができます。“愛される選手”になることはすごく重要だと思います。
日頃から気配りができるアスリートこそ、誰からも愛される-。
そう願う2人の表情は、温かく、愛情に満ちていた。【藤塚大輔】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「We Love Sports」)



