2020年、日本に東京オリンピック(五輪)の桜が咲く。東京五輪・パラリンピック組織委員会は20日、五輪聖火リレーのトーチを発表した。デザイナー吉岡徳仁氏(52)がヒントにしたのは、東日本大震災で被災した福島の小学生が描いた桜。仮設住宅で使われたアルミニウムの廃材を使い「復興五輪」の象徴にもなる。1年後の3月20日に「来日」する聖火は、吉岡氏や被災者たちの思いとともに福島から全国を巡って東京を目指す。

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東京・虎ノ門の大会組織委員会に、桜が咲いた。白いベールの下から現れたトーチは、桜の花びらをモチーフにしたもの。「桜ゴールド」に輝くトーチを見ながら、吉岡氏は「最新テクノロジーや表面のデザインも大切だが、被災地への思いや平和への願いを込めたかった」と笑顔で言った。

ヒントは15年に東京都内の発表会で見た福島・南相馬市の小学2年生が書いた100枚の絵だった。「力強い桜のエンブレムを見た時に、これをデザインしたいと思った。思いやりや助け合いという日本のいいところを、トーチにしたかった」。まだこの時点でデザイナーは決まっていなかったが、吉岡氏の強い思いと「復興五輪」を掲げる大会の思いは1つになった。

素材は「軽量で強度のある」アルミニウム。約3割は岩手、宮城、福島の被災3県の仮設住宅824戸で使われていたアルミサッシの廃材約4トンを回収、再生した。継ぎ目のない「アルミ押出成形」は、新幹線の製造と同じ高度な技術。燃焼部には「炎も桜になるように」強い風雨にも耐える燃焼方式を取り入れた。

福島第1原発の事故を受けて多くの人が避難した福島・浜通りには、相馬市に近い富岡町の「夜ノ森」など桜の名所が多い。来年3月26日に国内聖火リレーがスタートするJヴィレッジも桜の植樹が進む。東京で桜の開花宣言が見送られたこの日に発表された「聖火リレー」。大会のカウントダウンは、仮設住宅の廃材と復興を象徴する桜とともに行われる。

◆聖火リレーのアンバサダーに選ばれた柔道五輪3連覇の野村忠宏氏はトーチを手にして「緊張し、感動しました」と話した。母八詠子さんは64年東京五輪の聖火ランナー。奈良県の第1走者として走り、04年アテネ大会でも国際聖火リレーのランナーとしてJOC竹田会長から聖火を受けている。「家の中でもリレーですね」と笑った。野村は元パラリンピック射撃代表の田口亜希さん、女優の石原さとみ、漫才師のサンドウィッチマンとともにリレーを盛り上げる。

◆トーチサイズ 71センチ、1・2キロ(燃料含む)。炎の高さは25~30センチ。「誰もが持てることを考慮」。

◆製作本数 1日のランナーが80~90人。121日間で約1万人となるため、1万本余りを用意する。

◆使用後 希望するランナーには「実費」で販売。過去の例だと5~7万円。購入はランナーのみ。

◆記念イベント トーチ発表の20日から22日まで、東京スカイツリーをトーチカラー(桜ゴールド)に特別ライティングする。

◆エンブレム 聖火リレーの沿道などを飾るエンブレムも発表。大会エンブレムをもとにデザイン。