異例の涙の訴えだった。元世界女王で、4大大会4度の優勝を誇る世界78位の大坂なおみ(24=フリー)が、敗退にも、自らコート上のインタビューを依頼し、勝者のインタビュー後に、泣きながら、観客へのお礼を述べた。

同24位でロシア出身のクデルメトワとの対戦で、第1ゲームを終わったところだった。1人の女性の観客から2度ほど、「なおみ、最低!」などと、中傷的なヤジが浴びせられた。大坂は、主審に「なぜ注意しないのか。マイクを貸してほしい」と詰め寄った。

しかし、主審は「その人を特定できないし、何を言いたいの? 前例はないし、貸せない」と、大坂の要求を断ったようだ。ヤジに加え、その主審の言葉に動揺したのか、大坂は、第2ゲームの途中で涙を見せた。

とてもプレーできる心じゃなかったのだろう。第1セットは1ゲームも奪えなかった。第1セットが終わってからも、大坂は主審や大会スーパーバイザー(管理者)と何度も話し合う場面が見られた。ただ、第2セットも押し切られ、0-6、4-6のストレートで敗れた。

実は、今大会は、過去に、観客が人種差別的な発言をし、ウィリアムズ姉妹が13年間、出場を拒否したことでも有名だ。01年大会準決勝で、姉妹対決が実現したが、姉ビーナスが戦う前に棄権。当時、父リチャーズが姉を棄権させたといううわさが流れ、決勝戦に入場した妹セリーナに、会場全体からブーイングの嵐と、心ない差別のヤジが浴びせられた。

大坂は、セリーナに憧れてテニスを始めた。それだけに「その騒動を何度も(ビデオで)見た。またなぜ。そのビデオを見た方がいい」と、コート上で涙を流した。そして「以前にもヤジを浴びたことはある。その時は気にならなかった。でも、今回は、頭の中で、何度もその言葉が繰り返された」と、悔しそうに話した。

それでも、「最後まで応援してくれてありがとう」とお礼を言うと、観客から大声援が起きた。インタビュアーも「1万人のお客さんがいれば、9999人はあなたの味方だ」と勇気づけた。最後は、勝者よりも大きな拍手に支えられ、コートを去った。