ショートプログラム(SP)8位と出遅れた羽生結弦(27=ANA)が、2月10日のフリーで「最終目標」に挑む。「天と地と」の冒頭、前人未到のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)を試みる予定。

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現行のジャンプでは最高の基礎点12・5点にGOE(出来栄え点)を加えれば、最大18・75点の夢がある超大技。ナンバーワンよりオンリーワンを目指す戦いが待つ。

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一貫してブレていない。SPは8位と事件が起きたが、金メダル2個を持つ羽生が北京五輪を目指す根本的な動機は、4回転半の世界初成功という夢だった。

演技4時間前にあった公式練習。基本、午後のSP本番に向けた最終調整をする場で、羽生はSPで跳ばない4回転半に挑んだ。回転が足りず、両足で着氷。執念が伝わる。今季初戦となった昨年末の全日本選手権でもSP当日は跳ばなかったが、北京では試みた。

試合を終えると「まだ時間はある。ショートが終わった後の時間を有効活用しながら、本当に皆さんの思いを受け取りつつ完成されたものにしたい」と切り替えた。落ち込んでいない。

2連覇を遂げた4年前の平昌五輪では「夢がかなった実感がある。取るべきものは取った。モチベーションは4回転半だけ」と語った。昨春の時点で1000回を超えるチャレンジも成功なし。「ひたすら暗闇を歩いている感じ。頭打って脳振とうで死ぬんじゃないか」「氷に体を打ちつけて死にいくようなジャンプ」は生死を懸けても「まだ成功していない」と前日7日に悔しそうに明かした。

昨季は3回転半すら跳べなくなった。コロナ禍の中で拠点のカナダに戻れず、コーチ不在の仙台で1人練習した。「暗闇の底に落ちて、スケートすることに罪悪感もあった」。今季も「限界。やめようかな」と沈んだが、再起できたのは大技を跳べない悔しさと使命だった。「皆さんが懸けてくれている夢だから。自分だけのものじゃない」と。

昨年12月26日の全日本選手権フリーで、試合で初めて投入した。1回転下の判定で記録は3回転半。減点もされ「4・11点」だったが、未到の領域に入れた。五輪では誰も挑戦したことがない。迷いなく「天と地と」の冒頭に入れる。

昨年末は「2連覇を失うことは怖い。負ける確率の方が平昌の時より高い」と自覚し、北京でも「まだ成長しなくてはいけない部分がある状態」と念を押す。2日後のフリーへ「体力はいい感覚で残っている」。海外メディアから跳ぶか問われると、即答した。「I will doing、TRY!」。【木下淳】