14年ソチ五輪代表で国学院大助教の町田樹さん(31)が、フィギュアスケート界の今を説くインタビュー。最終第3回は「なぜ女子はショートプログラム(SP)で4回転ジャンプを跳べないのか」。15日から開始される女子では、ロシア勢が4回転を操るが…。男女間のルールについて考察する。【聞き手=阿部健吾】

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「これについてはシンプルです。とにかく、この男女平等社会の中で、男女差があるのは言語道断なわけです。従いまして、ルールも男女平等であるべきでしょう。ただし、第2回の記事でも言及しましたが、大事なことは持続可能な競技でいれるかどうかです。SPで4回転を跳べるようにするなど、女性のルールを男性と同じように統一して、健康問題などが起こってしまうのであれば、元も子もありません。ですので、男性女性にかかわらず、人間にとって健康で持続可能な競技規則はどのようなものかを検討することが最も重要です。その上で、男女のルールを統一していくべきではないでしょうか」

国際オリンピック委員会(IOC)は男女平等の徹底を推進し、昨年11月にはトランスジェンダー選手の参加資格も含む新たな指針を発表している。

「スポーツ界はこれまで男女二元論の価値観で運営されてきました。しかし、LGBTQなどのジェンダーもあり、この価値観が根本的に見直されてきています。ことフィギュアスケートでは、男女の身体能力差も縮まってきていて、ロシアのワリエワ選手はおそらく男子シングルに出場しても金メダルの最有力候補になれるでしょう。こうした事例を鑑みるに、ジェンダーカテゴリーの見直しと、ルールの統一化を議論する時期にきているのかもしれません」

4回転禁止は幼年期のジャンプの身体への影響を考慮した面もあるとみられるが、明確な根拠は示されていない。さらに問題視したのは、現在は演技構成点で男女差がある点。「曲の解釈」など5項目(各10点満点)の合計になる点に「係数」が設けられている。SPでは男子が1・0倍、女子は0・8倍。フリーでは男子が2・0倍、女子が1・6倍。

「私はかねてこの係数をなくすべきだと主張してきました。かつては男子の方が演技時間が女子よりも長かったので係数に差があるのは理解できましたが、今や男性も女性も演技時間は全く同じですので、即刻に演技構成点の係数差は是正されてしかるべきです」

今季話題になった出来事に「ワリエワが男子だったら?」がある。ロシアの15歳の超新星は11月のロシア杯でSP、フリー、合計(271・71点)で歴代最高点をマークしたが、男子の係数で換算すると、合計301・14点。SPでは4回転が禁止されている条件で、チェン(335・30点)、羽生結弦(322・59点)に次ぐ300点超えに匹敵していた。

また近い将来にフィギュア界が次に向き合うのは、トランスジェンダー選手の対応だろう。

「今IOCは究極の二択を迫っています。1つはジェンダーをコントロールしていく。今までの男女の枠組みなどを基盤にし、該当選手をどちらにカテゴライズするのかをその都度に議論しながらコントロールしていく。もう1つがジェンダーという枠組みを溶解させる。つまり、ジェンダーのカテゴリーを設けないということです。IOCは今、この究極の二択を社会に問うています。みなさんはどう思われるでしょうか。ロシアの女子選手が男子に匹敵する競技能力を顕示しているなど、フィギュアに関してはジェンダーカテゴリーを溶解させてもよくなりつつあるのが驚きなのですが…」

五輪後の推移に大きく影響を与えそうな女子勢。今後フィギュアのルールが男女統一化されるのか、ジェンダーカテゴリーをどのようにしていくべきなのか、考えながら北京五輪を観戦したい。