フィギュアスケート女子でショートプログラム(SP)3位の坂本花織(21=シスメックス)が、パワフルな演技を貫く。16日は会場の首都体育館で前日調整。好調なフリーの土台はコロナ禍の20年春、約2カ月間続けたシスメックス陸上部での体力強化にある。04年アテネ五輪女子マラソン金メダル野口みずきさん(43)もかつて在籍した強豪での鍛錬を力に、10年バンクーバー五輪銀メダル浅田真央以来、女子12年ぶりの表彰台を目指す。

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重圧を感じ、膝が震えたSPの演技から一夜明け、坂本の表情は柔らかくなった。首位のROC(ロシア・オリンピック委員会)ワリエワとは2・32点差。前夜は午前6時まで眠れず「アドレナリンが出過ぎて…。こんなに寝られないのは初めて」と苦笑いした。午後2時半からの公式練習はジャンプが不調。ROCのメダル候補3人と行う練習だったが「だいぶ慣れた。(樋口)新葉がいるので心強い」と冷静さはあった。

勝負のフリー。トリプルアクセル(3回転半)や4回転ジャンプを持たない坂本が、自らに課すのはミスのない演技だ。今季はグランプリ(GP)シリーズ第4戦NHK杯、五輪代表選考会の全日本選手権とジャンプをそろえて優勝。競技会で自信を蓄積し「集中すれば大丈夫」と言い切る。

土台は意外な場所で培った。新型コロナウイルスが急拡大した20年春、拠点の神戸のリンクも閉鎖された。トレーナーを介し、門をたたいたのは所属先の陸上部。それまで接点はなかったが、週3日、陸上部員と練習を積むようになった。

自重での体幹、はしごのような形状の「ラダー」を使った動きづくり、そして1時間のランニング…。2カ月続けた練習で、時に100メートル10本のインターバル走にも取り組んだ。メニューを作った陸上部の高尾博教コーチ(34)は「言ったことがすぐに陸上でできる。嫌々やっても身に付かないけれど、積極的で陸上部員の刺激にもなった」。坂本は「みんな滑れていない状況は同じ。頭ひとつ出るには『今が踏ん張り時やな』って思った」と明かす。

泣いても笑っても、残すは4分間。中野園子コーチ(69)からは「最後気が抜けてダメになったら、今までの努力が水の泡だよ」と気合を入れられた。「今日は早く寝て、明日に備えて準備をしたい」。4年に1度の大勝負で人事を尽くして天命を待つ。【松本航】