高木菜那(29=日本電産サンキョー)に再び悪夢が襲った。連覇を狙った女子マススタート1回戦、最終16周目の最終コーナーで転倒し、決勝進出を逃した。15日の団体追い抜きで転倒した場所と同じコーナーだった。18年平昌五輪では1回戦で転倒していた佐藤綾乃(25=ANA)は8位入賞を果たした。男子は土屋良輔(27=メモリード)が6位、一戸誠太郎(26=ANA)が8位でともに日本勢初の入賞となった。

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また最後のコーナーだった。高木菜は先頭で決勝進出はもう目の前だったが、ここまでの16周で他選手とスケートが激しくぶつかり合うなどし「もう左足が言うことを聞かなくなっていた」。女子団体追い抜きの「転んだ怖さもあった」と、同じマットに体を打ち付けた。

レース中盤、隊列にうまく入れない。1つ外側を滑らされ空気抵抗をもろに受けた。コロナの影響などで2シーズン、マススタートに不出場のまま迎えた五輪本番。駆け引きや作戦を、どうしたらいいのか分からなかった。

「正直怖い。やりたくない」。マススタートへの率直な気持ちだった。接触についてのルールが厳しくなったと聞いていたが激しいぶつかり合いや、腕の引っ張り合いもあり、ケガと隣り合わせのレースだった。

転倒で涙の銀メダルとなった団体追い抜きから中3日。同部屋だった妹の高木美ら追い抜きチーム3人の存在が救いだった。「自分が転んだせいで2位になったと思っていたけど誰も責めないし、いつも通り接してくれた」。日本から多くの励ましの言葉があって「気持ちを切り替えて」スタートラインに立った。

平昌で初採用されたマススタートで初代女王に輝いた。団体追い抜きと2つの金メダルを獲得した直後の夏、もう一段階レベルアップを図ろうとスポーツ庁の室伏広治長官を訪ねた。東京医科歯科大の教授でスポーツ科学の研究者でもある室伏氏に「競技人生の集大成」に向けて体の基礎機能強化から依頼した。

その北京五輪が終わった。今後について「2年間過ごしたオランダで最後、1500メートルをいい形で滑り終えたい」と語った。14年から2年間、所属先の活動拠点だった思い出の地で、集大成の滑りをする。【三須一紀】