男子車いすT52クラスで佐藤友祈(ともき、28=WORLD-AC)が世界新記録を連発した。

 単独走になった1500メートルで3分25秒08をマークし、5人が出場した400メートルでも55秒13で圧勝した。これまでの記録は世界を舞台に競い合ってきた宿敵レイモンド・マーチン(米国)の3分29秒79、55秒19だった。

 逆風を突いてホームストレートを走り抜けると、佐藤は雄たけびを上げて右拳を握りしめた。トラック横の1500メートルの速報計時は、そのまま世界新として確定した。「今年の目標は世界記録を出すこと。この大会でダメなら、もう無理という気持ちで臨みました」。5~6月のスイス遠征3連戦で更新を狙ったが、思うようにタイムが伸びなかった。そこで今大会では車いすに装着している速度、タイムを表示するメーターを外してレースに臨んだ。

 「例えば逆風でスピードが落ちたのが数字で分かってしまうと、自分にリミッターをかけてしまうようにメンタル的にマイナスになる。だからそれを取り払いました」。佐藤1人だけが出場の孤独なレース。相手は時計だけだった。速度や時間を気にすることなく、ひたすら車いすをこぎ続けたことが記録更新につながった。55分後の400メートルでも激しい疲労の中で決して両腕の力を緩めなかった。この2レースの前には専門外の100メートルに出場して3位。1日に3本走っての快挙達成だった。

 メイン種目の400、1500メートルで、16年リオデジャネイロ・パラリンピックではマーチンに敗れて銀メダルにとどまった。昨年7月のロンドン世界選手権では雪辱を果たして2冠に輝いた。そして、2年後の東京へ向けて準備は整えている。

 リオで78キロあった体重を昨年は73キロに、今年は72キロまで落としている。厳しい練習と食事管理で軽量化を図り、走りにスピード感が増した。苦手のスタートにも改良を施した。「5発目からの加速」をテーマに、最初のひとこぎから力を入れるのではなく、徐々に加速して滑らかにトップスピードに乗ることを意識する。その結果、両腕への負担が軽減されて終盤の走りにさらに鋭さが加わった。

 世界選手権2冠に加えて世界記録ホルダーにもなった。名実ともに世界一を極めた佐藤は、こう言った。「いや、まだ足りないものがあります。それはパラリンピックの金メダル。もちろん2つです。それまでは僕の時代を誰にも譲らない」。佐藤は自らの心に刻み込むように、マーチンら世界のライバルに宣戦布告するように決意を明かした。【小堀泰男】

 ◆佐藤友祈(さとう・ともき)1989年(平元)9月8日、静岡県藤枝市生まれ。静清工高(現静清高)卒業。県内の水産加工会社に勤務後、演劇の仕事を希望して上京したが、21歳の時に骨髄炎にかかって左腕と下半身にまひが残った。2012年のロンドン・パラリンピックを見て車いす陸上を開始。15年のドーハ世界選手権400メートル金メダル、1500メートル銅メダル。リオデジャネイロ・パラリンピックでは両種目銀メダル。17年ロンドン世界選手権で2冠。岡山市在住。