今月13日、上智大学で上映された「東京パラリンピック 愛と栄光の祭典」を見てきました。65年5月の公開以降、ほとんど人の目に触れることがなかった64年大会の幻のドキュメンタリー映画です。株式会社KADOKAWAさんによって発掘、デジタル化された当時の貴重な映像は、私にいろんなことを気付かせてくれました。

真っ先に思ったのが、20年東京パラリンピックの記録映画はどうするのか、ということです。五輪は河瀬直美監督が手掛けることが発表されていますが、パラリンピックについては何も触れられていません。このままではパラはレガシーとなる記録が残らない。今まで見過ごしかけていたことに気づき、声を上げなければと思いました。

今回の映画は当時の空気感をストレートに映し出しています。「気の毒な障がい者」というナレーション、障がいを負って結婚をあきらめた女子選手、療養所からバスで選手村入りする日本選手団……。インパクトのある映像は、障がい者を取り巻く環境は、この半世紀で何が変わり、何が変わっていないのかを、私たちに問いかけてきます。

興味深かったのは映画を見た人たちの見解が、人によって違うことです。実にさまざまな意見があり、議論になったりもします。それだけあの映画に価値があるということだと思います。次の世代の人々が、あの映画を見て、議論を重ねて、それが次につながっていく。記録を残すことの大切さをあらためて感じさせられました。

そういえば私が出場した98年長野パラリンピックも記録映画はありません。世の中がデジタル化される直前で、ネット検索しても映像は驚くほど少ない。今はまだ私を含めて当時の関係者の多くが現場にいますが、50年後もコンタクトができる人が果たして何人いるのか。五十数年ぶりに公開された映像は、そんな危機感も抱かせます。

今回の映画は、可能であればネットで大勢の人々に公開してほしい。世の中に広く拡散すれば、当時の関係者や選手たちが声を上げてくれるかもしれません。20年大会はもちろん、98年大会も今ならまだ間に合います。公式の映像として残して、一般公開することで、多様な視点が生まれるはずです。それがレガシーになって、未来につながっていくのだと思います。

◆大日方邦子(おびなた・くにこ)アルペンスキーでパラリンピック5大会連続出場し、10個のメダルを獲得(金2、銀3、銅5)。10年引退。現在は日本パラリンピアンズ協会副会長で、平昌パラリンピック日本選手団長を務めた。電通パブリックリレーションズ勤務。47歳。