重量挙げ女子49キロ級でメダル候補の鈴木梨羅(りら、25)には7歳年上の“同志”がいる。16年リオデジャネイロオリンピック(五輪)63キロ級代表の松本潮霞(なみか、32)。同じ松戸国際高から、後を追う形で早大、現所属のALSOKと進み、今もコーチとして支えてくれている。親愛なる先輩との出会いから、信頼し、ともに挑戦を続ける現在まで。三宅宏実が5大会連続で代表を務めてきた女子最軽量級で「歴代最強」を誓う新星を支える絆とは-。【取材・構成=阿部健吾】
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★7つの年の差
鈴木は何度も言いづらそうにしていた。「松本コーチ…」。立場はそうなのだが、どうもしっくりこない。「潮霞さん、でもいいですか」。何度目かで決意して、いつもの呼び方にすると、隣の松本もニッコリ。「逆の立場だったら、こんな7つも離れた後輩に親しく接することはできない。先輩が温かかったので、こんな関係性になれたなって」。照れてもっとにやける先輩。「年が離れた同志」と認め合う関係が、しっくりくる。
出会いは、鈴木が松戸国際高1年の時にさかのぼる。フラッとミニバイクで練習場に現れたOGの松本が、練習場で思わず“盗撮”した。「動きがバーベルと一緒になってる!」。専用靴ではなく、運動靴を履いた名前も知らない新入生に目を奪われた。運命が回り出した。
★剣道足さばき
当時の鈴木は競技を始めて約3カ月。中学では剣道部も、小柄で短いリーチは負けの悔しさだけを増やした。「剣道で鍛えた精神性、腕力を生かせるのでは。階級制だし、フェアかな」とフラッと体験入部した重量挙げ。試すと適性は足元にあった。剣道で打ち込む際の足さばきが、クリーン&ジャークの動きに相似。「きたー!」と衝撃が走った。数カ月後、その姿を見た松本にも衝撃が走った。
2年後、リオデジャネイロ五輪を決めた松本が、母校の壮行会で来校した。体育館でスポットライトを浴びる姿に「もうキラキラ! すごい」と憧れた。五輪を身近に感じた瞬間。目標は明確になった。同じ早大に進学すると、先輩はいつも身近にいた。当時、松本が卒業後も練習拠点にしており、一緒に過ごす時間は長くなっていった。「お優しいので、いつも食事に誘ってくれて」と人生が重なっていった。
★引退と復帰と
先輩が選手を引退した時には、大学近くの喫茶店で泣いた。社会人でも同じALSOKに就職した21年の10月だった。ただ、松本が引退を決めたのは、鈴木のためでもあった。「梨羅が同じ道を歩んでくれていたのはうれしかったですが、セカンドキャリアでも道を作りたいなと」。リフターの可能性を広げたい-。23年末に同社を退社すると、皿洗い、配送業など、いろいろな職業を経験しながら道を探った。
光が見えたのは“選手復帰”だった。今年、クロスフィットの競技者として試合に出場。00年代に米国で始まったフィットネスで瞬発力、柔軟性、持久力など多様な能力が求められるメニューがランダムに繰り広げられる。「見てもらって応援してもらって、ウエートリフティングも知ってほしい」。何より、重量挙げ選手の第2の人生に1つの可能性を示したかった。復帰の報に、今度は笑った鈴木。断酒を含め、節制して体重を落としながらの挑戦は「私よりストイック」と刺激十分だった。
「一緒の筋疲労を感じて、同じ目線で筋肉に対して会話をしていたい」と望む松本は、技術的な助言よりも、寄り添い、ともに挑戦している意識が強いという。その思いに、鈴木は「違う視点から教えていただけるものが多い。本当に自分は幸せ。限りある競技人生を大事にしていきたい」とかみしめる。
先輩の築いてきた道を踏み締め、21年世界選手権、今年2月のアジア選手権で銀メダルを獲得。アジア勢が強い49キロ級で、メダル争いをするまでになった。パリ五輪は、女子ただ1人の代表。最軽量級で、24年ぶりに三宅以外の名前が日の丸を背負う。誓うのは「歴代最強になりたい」。堂々の宣言に、松本も「それでいこう!」と背中を押す。「潮霞さん」とともに、キラキラ輝くメダルへ続く道をゆく。
◆鈴木梨羅(すずき・りら)
1998年(平10)9月6日、千葉・白井市生まれ。松戸国際高で競技を始め、2年時に全国高校選抜大会で初優勝。早大に進み、3年で全日本選手権を制覇。ALSOKに入社し、世界選手権は21年銀、23年8位。自己記録はスナッチ85キロ、クリーン&ジャーク112キロ(日本記録)、合計197キロ(日本記録)。パリでの目標は合計210キロ。146センチ。
◆松本潮霞(まつもと・なみか)
1992年(平4)2月7日、千葉・船橋市生まれ。姉萌波さんが重量挙げで活躍していた影響もあり、旭中では陸上部に所属しながらバーベルを挙げる練習も。松戸国際高でも陸上部と掛け持ちしながら、全国制覇を重ねる。早大進学後から国際大会でも活躍。16年リオ五輪は9位。世界選手権は15、18、19年の3度出場。自己記録はスナッチ98キロ、クリーン&ジャーク116キロ、合計214キロ。ユーモアあふれるSNS投稿も人気。クロスフィットを始めて3カ月弱で体重が7・5キロ減った。158センチ。



