新型コロナウイルスによる1年の延期を経た東京五輪の聖火リレーが25日、福島県のサッカー施設Jヴィレッジ(広野町、楢葉町)からスタートした。東日本大震災が起きた11年に、女子サッカーW杯ドイツ大会で初優勝した際の「なでしこジャパン」メンバーが第1走者として走った。7月23日、国立競技場(東京・新宿区)で行われる開会式の聖火台にともされるまで121日間、47都道府県を回る。リレーが原因でクラスターが発生すれば本大会の開催にも大きく影響する難しい事業にもなる。

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南相馬市で聖火をつないだ農業を営む上野敬幸さん(48)は、家族を含む東日本大震災の被災者の思いを背負って走った。津波被害により、両親と子ども2人を亡くしており「復興五輪としてスタートしている。亡くなった人にも安心してほしかったので、笑って走りました」。震災翌年に生まれた次女倖吏生(さりい)さん(8)や妻貴保さん(44)に見守られながら、トーチを高く掲げた。

母順子さん(当時60)、長女永吏可(えりか)さん(同8)の遺体は見つかったが、父喜久蔵さん(同63)、長男倖太郎さん(同3)は今も行方不明のままだ。以降はボランティア団体「福興浜団」を設立し、行方不明者の捜索やがれきの撤去に尽力。再建した自宅周辺の農地には菜の花を植え、大型連休には毎年「菜の花巨大迷路」を一般開放するなど、地域活性化の活動を継続している。

「亡くなった家族の声が聞ければ最高ですが、きっと喜んでくれていると思います。トーチは家に飾りたい」。4人の遺影や、おもちゃなどが並ぶ和室の仏壇に供える。【鎌田直秀】