国際オリンピック委員会(IOC)の渡辺守成委員(61)が21日、日刊スポーツの取材に応じ、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で通常開催の是非が問われている東京オリンピック(五輪)について「5割強の選手が代表に内定している中、アスリートファーストの観点から通常開催を目指すべきだ」と答えた。渡辺氏は国際体操連盟(FIG)会長。日本人のIOC委員は、日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長と2人しかいない。さまざまな意見や、臆測が飛び交う中で、冷静に語った。

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今月12日、聖火採火式が行われたギリシャ・オリンピアでIOCトーマス・バッハ会長らと東京五輪・パラリンピック大会組織委員会側で会合が行われた中に、渡辺氏はいた。延期などの協議がなされたのではとの臆測も飛んだが「延期、中止、無観客の話は一切でなかった」と明かした。

ボクシングが国際競技連盟(IF)の不祥事で東京五輪参加が危ぶまれていた中、昨年、IOCの特別作業部会の座長として同競技の運営再興を託されるなど、バッハ会長とも親しい間柄にある。

渡辺氏は57%もの東京五輪代表選手が決まっている状態を加味し「選手のことを考えれば、代表が決まった選手のためにも、通常開催を目指すべきだ。バッハ会長は元オリンピアン。私以上にそう思っているだろう」と語った。17日に行われたIOCとIFの電話会議でも、延期や中止に関する質問は両者から出なかった。

一方で一部の競技団体や各国オリンピック委員会から、延期の要望が出始めているが、「1年も延期したら、引退しなければならない選手がたくさん出る。代表選考は(基本的に)やり直しになる。かわいそうだ」とし、FIGに加盟する各国協会からも「延期や中止を要望する声は全くない」と明かした。

日本国内でも一部の組織委理事やJOC理事が延期論を訴えているが「そういう意見は一部だし、出るのは分かる。だがIOCの中でそういう話は聞いた事がない」と語った。

バッハ会長が米ニューヨーク・タイムズ紙に「違うシナリオは検討している」と話したことには「組織としてあらゆる想定をするのは当然だ。メディアが通常開催論はあまり報じず、延期や中止論ばかり大きく取り上げるから、そちらばかりが目立つ」とけん制した。

その上で「逆に延期や中止はいつでも決断できるが、決定してしまったら後戻りできない。ブレたら非常に複雑な状況になる。ここは選手を最優先に考え、進めないといけない」と答えた。【三須一紀】

◆渡辺守成(わたなべ・もりなり)1959年(昭34)2月21日、北九州市生まれ。戸畑高時代に体操を始め東海大に進学。その間、2年間ブルガリア国立体育大に研究生として留学し新体操に出会う。84年ジャスコ(現イオン)に入社し、新体操の育成強化に尽力した。00年日本体操協会常務理事、09年専務理事。FIGでは13年から理事を務め、16年10月にFIG会長選で当選し、17年1月から同職。18年10月に、日本から通算14人目のIOC委員に就任した。

<東京五輪を巡る発言>

◆2月6日 組織委・武藤総長「大会は予定通り行うが、必要となる対策はしていく」=政府の対策本部設置を受けて組織委内にも対策本部を設置

◆13日 組織委・森会長「中止や延期は検討されていない」=IOCとの事務折衝にあたって

◆25日 IOCパウンド委員「開催是非の判断期限は5月下旬」=開催を前提にしながらも他都市での代替や分散開催は厳しいと指摘。数カ月の延期も難しいという見方で示した。

◆27日 IOCバッハ会長「(中止や延期など)推測や仮定の話には答えない」=電話会見で予定通りの開催に全力を尽くす考えを示した。

◆3月4日 バッハ会長「中止や延期は議論に上がらず、検討もされていない。成功に向けて尽力する」=IOC理事会後の会見で通常開催を強調。

◆12日 米トランプ大統領「東京五輪は1年延期すべきだ」=初めて開催延期に言及。バッハ会長は同日に中止や延期を否定した。

◆14日 バッハ会長「東京大会の開催は世界保健機関の助言に従う」=変わらぬ準備を強調しながらも、初めて可否の基準に言及。

◆17日 バッハ会長「選手にとって公平な選考を行う」=五輪予選の相次ぐ中止を受けて、緊急理事会を招集。選手選考方法を見直す可能性を示唆した。

◆18日 スペイン・オリンピック委員会ブランコ会長「選手が練習できずに不平等が生じる。大会は延期すべき」=IOCとの電話会議を前に提言。

◆19日 バッハ会長「もちろん、違うシナリオは検討している」=米紙のインタビューに通常開催以外の可能性があることを示唆。