東京オリンピック(五輪)の聖火リレーは8日、秋田県1日目が行われ、菅義偉首相(72)の地元でもある湯沢市からスタートした。稲庭うどん、川連こけし、川連漆器、秋田仏壇など県内屈指の伝統産業の地としても有名な同市。地場産業を盛り上げる「稲庭うどん小川」の女将、小川選子(よりこ)さん(49)も、沿道から従業員や市民の応援を受け「トーチは思った以上に重かった。家族や知人に感謝を伝えたいと思っていたけれど、園児や知らない人まで応援してくれて、逆にパワーをいただいた。ギリシャから来た聖火をつなぐことが出来て幸せですし、心に響いた。何があっても、これから人の支えになりたいと思います」。感謝の気持ちを、今後も地場産業のさらなる発展につなげる気持ちも抱いた。

新型コロナウイルスの影響で観光客激減の逆風の中、海外向け通信販売の新規事業などにも尽力中だ。欧州ではポーランド、オーストリア、フランスなどと、オンラインで営業活動。「お菓子や日本酒と違って、稲庭うどんは封を切ってすぐに食べられるわけではない。丁寧に説明しながら現地のお客さまにもおいしく食べていただきたい」。他のうどんが1~2日間で完成するのに対し、稲庭うどんは約4日間かけて、手作りで練りや熟成などを繰り返す。うどんの中に気泡(きほう)ができることで、ゴムまりのような食感を生み出す。韓国、中国など、アジア展開にも拡大し、コロナ禍を逆手にとって、世界に「稲庭うどん」を展開していく。

東京五輪に関しても準備してきたことがあった。「本当は五輪にちなんだ5色のうどんを試行錯誤しながら準備してきたのですが、そういうムードではなくなってしまった。いろいろな色のバリエーションで楽しんでいただきたかったのに残念」とお蔵入り。それでも五輪開催は願う。「超人が競う姿は画面を通じてでも良いから見たい。力をいただける。対策さえしっかりしていれば感染防止が出来るということが証明される明るい光となる大会になってほしい」と期待した。

創業者の両親から命名された選子の名。「選ばれたことはあまりない。これまでは夫(博和社長)くらい。今回は聖火リレーに選んでいただけたので本当に良かった」。長男、長女、次女の子どもたち3人も、後継者として勉強を重ねている。聖火で得たパワーや感謝を胸に、自身は家族や従業員、地域、さまさまな協力も得ながら、「稲庭うどん」で世界産業界の“金メダル”獲得に挑み続ける。【鎌田直秀】