清原和博氏が講演会で語った高校時代、ライバル、逆風、後悔…
元プロ野球選手の清原和博氏(56)が2月20日、さいたま市内のホテルで「野球から学んだ奉仕の心」という演題で講演会を行った。野球を始めた頃の話、PL学園時代の思い出、ドラフトやFA移籍を決めたときの心境、さらには今後の活動についてなど、さまざまな話題を語った。司会進行役を務めた日刊スポーツ特別編集委員の飯島智則(54)が、講演会を振り返った。
プロ野球
本塁打で叱られた
清原和博氏の講演会は、大いに盛り上がった。
2月20日、さいたま市内のホテルで、地元ロータリークラブの要請によって実現した会だった。演題は「野球から学んだ奉仕の心」。清原氏が野球から学んだことを多岐にわたって披露した。
一部を紹介しよう。
◆小学時代に学んだセンター返し
「当時の監督に、センター返しを徹底して意識するよう言われました。レフトにホームランを打って叱られたこともあるぐらいです。ただ、こう打てと命じられるのではなく、どうやったらセンターに打てるか自分で考えるよう言われました。この経験は貴重で、プロに入っても基本は変わりませんでした。私は右方向にも長打が出ると言われましたが、ライトを狙ったことはない。常にセンター返しを意識していました」
◆負ける悔しさを学んだPL学園時代
「1年夏は夢中でプレーして甲子園で優勝したが、2年春夏、3年春と優勝できなかった。特に伊野商に負けた3年春は悔しかった。渡辺智男投手に3連続三振。夜、泣きながらバットを振りましたね。この日から夏の甲子園で優勝するまで、毎日300スイングの素振りを続けた。素振りは投球を打つより厳しい練習。この素振りがあったからこそ、最後の夏に優勝できたと思っています。センター返し、素振りは、プロで結果が出ないときに立ち返る基本でした」
◆ドラフトの悔しさを胸にプロ入り
「巨人から指名されずに悔しいやら、怒り心頭やら…でも、巨人を見返してやろう、おこがましいですけど、王貞治監督の868本塁打を抜こうという目標を持ってプロ入りしました。2年目の日本シリーズで涙が出たのは、その1つがかなうという思いからでした」
なお、プロ入りを決めた直後、PL学園のチームメートに「最初のサインをしたる」と言って色紙に向かったという。
「西武ライオンズが、西部警察の『西部』になっていまして。あのサイン、チームメートが持っているかな。今では結構価値があると思います(笑)」
◆黄金時代の西武で学んだこと
「当時のパ・リーグは今ほど人気がありませんでしたが、その中で優勝に向けてピリピリとした雰囲気でプレーできた経験は貴重でした。4番打者が打てばチームは盛り上がると、そういう責任感を持って臨んでいました」
時はバブル。試合が終わると六本木まで遊びに行く日も多かったという。
「所沢からタクシーで2時間ぐらいかけて六本木まで行って、朝方帰って、そのまま試合ということもありました。僕が何回も門限破りをするから、寮の周りに鉄のギザギザをつけられたけど、それを乗り越えて出て行って、(太ももを指して)このへんを切ったこともありました。当時の選手は酒は飲む、バスに乗ったらタバコで煙モクモクと、そんな時代でした」
聴講者から笑いが起きる中、付け加えた。
「今の選手のように栄養を管理して…大谷(翔平)くんみたいにちゃんとやっていたら、もっと、とんでもない仕事ができたんじゃないかと、そう思いますね」
◆ライバルとの対決に燃えた
「野茂(英雄)や伊良部(秀輝)との対決は楽しかったですね。野茂はフォークを投げれば三振取れると分かっている場面でも、キャッチャーのサインに首を振って真っすぐを投げてきた。こっちも、それを打ち返してやると燃えましたね。当時のパ・リーグは人気がなかったから、そういう真っ向勝負で注目されたと思います」
◆バッシングも受けた巨人時代に学んだこと
「マスコミに注目される球団で、勝てば長嶋(茂雄)監督と松井(秀喜)選手がヒーロー。負ければ清原のせい。コンビニに行ったら、新聞全紙が『清原ブレーキ』という見出しだったこともありますね。批判もされたけどウエートトレーニングに取り組み、食事もササミばかり食べたり、そういう積み重ねで乗り越えました。朝早起きしてトレーニングをしたときは、『ここまでやって負けるはずない』と思いました」
そのほか、ともに歴代最多のサヨナラ安打、サヨナラ本塁打の記録について「ここぞという場面はアドレナリンが出てきて、いつもは打てないコースが打てた」などと、勝負強さの秘密や、FA移籍時の心境、引退後にボランティアの話…ところどころで「今日は言っちゃっていいですよね」「ここだけの話ですが…」などと裏話も披露して、約250人の聴講者からは笑いや拍手が沸き起こっていた。
質問コーナーでは、「生まれ変わったら、何のスポーツをやりたいですか?」という問いが出た。
清原氏は笑顔で即答した。
「僕ね、野球人生に悔いはないんですよ。でも、後悔はたくさんある。だから、生まれ変わったら、もう1回野球をやって、その後悔を1個1個つぶしていけば… おこがましいですけど、もう少し…ホームランも700本まで打てるんじゃないかと思うんですよ。868本? それは、あまりにおこがましいです」
「悔い」と「後悔」。清原氏が意味するところは、引退するときに「やり切った」という思いはあったが、細部を振り返ると「こうしておけばよかった」「もっと、こうできたのではないか」という部分があるのだという。前述した「大谷くんのように…」という思いも含めてである。
確かに、清原氏が脇目もふらず野球一筋に打ち込んでいたら、一体どれだけの成績を残したのか興味はある。
ただ、私は、バブルという特殊な時期に「新人類」と呼ばれた清原氏や工藤公康氏、渡辺久信氏らは、遊びもパワーの源だった気がする。「遊ぶ時は遊び、やる時はやる」というスタイルが、同世代の我々から格好良く映っていたことは間違いない。
今後についても語っている。
「精神疾患との闘いは続いていて、自分が頑張ることによって、同じ苦しみで悩んでいる人に元気や勇気を与えたいですし、そういう活動もしていきたいです」
野球の指導に対する思いも口にした。
「少年野球の指導もできるだけやっていきたいですね。膝が良くないんで、イチロー選手みたいにバッティングを見せることはできないんですけど…いつか、また豪快なスイングを見せたいと思っています。今、犬を飼っていまして、犬に引っ張られながら散歩をしています。体力を回復させて、トレーニングをして…まずは健康に気を付けて、子どもたちに野球を教えていきたいと思います」
講演会は大きな拍手につつまれて終わった。
今回の講演会、私は司会進行役を任された。プロのアナウンサーに任せた方が安心なのだが、清原氏が「リラックスした雰囲気で進めたい」と希望したため、互いに20代の頃から番記者として取材を続けてきた私が担うことになったわけだ。
昨年11月に開催が決まってから、2人で何度も打ち合わせを重ねた。当日も会場までの道のり、控室で何度も段取りを確認した。
清原氏は野球でそうだったように、準備を入念にする。資料やデータに目を通し、こちらが「不必要では?」と思うような内容も頭に入れておく。
データの必要性というより、準備を重ねることで心の中にある不安を吹き飛ばしているように感じた。
本番もさることながら、ともに準備した時間が何より楽しかった。
◆飯島智則(いいじま・とものり)1969年(昭44)生まれ。横浜出身。93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。
コラム「手帳の余白」
日刊スポーツに「特別編集委員室」が立ち上がりました。取材経験が豊富、かつ表現力が豊かなライター集団。「日刊スポーツ・プレミアム」を中心に、健筆を振るいます。飯島智則編集委員は、コラム「飯島智則 手帳の余白」を随時掲載。どうぞお楽しみ下さい。
1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。
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