【本郷理華〈下〉】届かなかったオリンピックの先に知った滑る楽しさ プロで見つけた新境地
日刊スポーツ・プレミアムでは毎週月曜に「氷現者」と題し、フィギュアスケートに関わる人物のルーツや思いに迫っています。
シリーズ第34弾は、プロスケーターとして新境地を開き続ける本郷理華の来歴をたどってきました。9月に再演される「ワンピース・オン・アイス」でのMr.2・ボン・クレー役が大評判を呼ぶ27歳。3回連載の最終第3回では、平昌オリンピック落選からスケートの楽しさを再発見するまで、そしてプロの道を志し、演じる喜びを見つけた今の姿を描きます。(敬称略)
フィギュア
「夏だけでも行ってきたらいいんじゃない?」
母裕子の提案に救われたのは、18年のシーズンオフだった。
行き先はカナダ。会いたい人がいる国だった。
振付師のシェイリーン・ボーン。
「振り付けてもらう時に、すごく前向きになれた。楽しかったんですよね。その印象が強くて。その頃、本当にジャンプも跳べなくなってしまい、ダブルアクセルすら危うかったから、余計に行きたいなって」
2016-2017年シーズンのSP「カルミナ・プラーナ」で初めて依頼し、何より平昌オリンピックシーズンのフリー、映画「フリーダ」を演じる際にもらった言葉が心を潤していた。
メキシコ出身の画家の壮絶な人生。
「私の人生をそこに重ねて自分なりに表現しなさいって。うれしいところ、悲しいところ、そういう葛藤とかいろいろあるんですけど、それを全部自分なりに表現して、『情熱的にいきなさい』って。すごくメッセージもくれていて、大好きで」
つらい時間が続いた平昌までの日々で、明るく照らしてくれた時間は、より輝いて思えた。
苦難の道となった平昌までの日々
2014年の秋、グランプリシリーズを出場2戦目で制し、一躍次代の星として注目を集めた。
本来はジュニアで戦う事を想定していたシーズンの飛躍は、その後に影を落としていく。
「自分でもそこまで期待はなくて。ただ、今思うと、自分で自分を追い込むじゃないけど、『こうしないとダメだ』『練習は最低でもこれくらいしないと絶対ダメ』とか決めつけちゃっていましたね」
新星と称されるアスリートが陥りがちな自己評価と他者評価の隔たりの影響はなかった。幼少期から変わらず、足りなさへの自覚が行動を促した。
シニア2年目、まだ楽しみはあった。プログラムはショートプログラムが「キダム」、フリーは「リバーダンス」。
「リバーダンスはずっと使いたくて、やっと使っていいって言われたんですよ。それがうれしかったけど、練習はいつも通りに『きついな』と思いながらやっていたけど、世界選手権に出場できたり、(浅田)真央ちゃんと一緒に中国杯に出られたり。まだまだ新人感覚で楽しかったし、良かったです。ただ3年目ですね…」
ケガだった。左脚のくるぶしの下がずっと痛む。ひどい時には左脚に体重をかけただけで痛みが走ったが、休む考えはなかった。
「『でも骨が折れてるわけじゃないしな』って考えてましたね。すごく大きなケガじゃないと自分で言い聞かせて。医者に行けば休みなさいと言われたでしょうけど、休んでいたら平昌には行けないって思っていましたね」
正常な判断より先に、強迫観念が先に立った。だましだまし試合に出続けたが、結果はついてこない。2016-2017年シーズンのGPシリーズは表彰台に乗れずに、年末の全日本選手権5位で辛うじて歩を進めた世界選手権では16位に沈んだ。
「今思えば『時間は少なくなってもやることやってればいい』って思えるんですけど、その当時は『絶対に朝にこれをこれだけやって、夜もこれだけやらないとダメだ』と。足が痛くてそれが耐えられないけど、『やらなきゃ』みたいな。『どうしよう、どうしよう』みたいなシーズンでした」
その焦りはオリンピック選考がかかった翌シーズンまで尾を引いた。結果を残せずに、年末の全日本選手権も6位に終わり、平昌大会の2枠には届かなかった。
「私が目指せるオリンピックは平昌だけだと思っていたので。ずっと頑張ったから、それが行けなくて、何かプツって切れたような感じがして」
次のオリンピックを目指す未来は見通せなかった。
「すごい層が厚い。その中でやっていけるのかわかんなかったですけど、大学生はあと1年あるし、大学のうちはずっとスケートをやりたかったから、やろうと思って」
ただ、心が動かない。いままでどんなにつらくても通い続けたリンクにすら、足を運べなくなった。
「なぜかは自分でも分からない。滑る、滑らない以前の問題で。『情けない』って思うようになってしまいました」
ジャンプがどの種類も跳べなくなった。カナダでの振り付けの記憶が寄る辺となっていったのがその頃だった。
ボーンが授けてくれたわずかな幸福な記憶を頼りに、海を渡った。
「たいしてハードな練習はしてないですよ、日本に比べたら。毎日3時間と、週に数回のトレーニング、あとは週1回のバレエレッスンみたいな。でも、新しい環境でやってみたら、もう全部跳べるようになって、ルッツまで戻って」
驚きとともに1カ月ほどの滞在で帰国した日本ではただ、その感覚が消えた。またもジャンプが暴れ出した。
「もうすごく暗くて。それこそ、中京生のみんなに『理華ちゃん、そういえばあの時笑ってなかったよね』みたいに言われるくらい。これだけヘラヘラしてる私が笑ってなかったんだと思って。全然気づかなくて」
クリスマスの決意
深刻さに、本格的にカナダに拠点を移すことを決めた。ただ、それで解決とはいかなかった。別の悩みがうずまいた。
「楽しいだけで続けられなかったんです。今までグランプリシリーズや世界選手権に出させてもらっていて、そこを目指したくて。でも目指すまで頑張ったけど、及ばない」
グランプリシリーズに出始めて5季目。14年ロシア杯の初優勝から2勝目が遠かった。2018年11月のフィンランド大会は自己ベストに遠く及ばずに10位に終わった。7年連続出場となった同年末の全日本選手権では、自身の最低順位の17位に沈んだ。
「世界を目指せる実力がないのなら、スケートをやる意味ないなとまで思っちゃってて。だから、こんなんだったらやめようって」
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2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて17年。25年4月に初の異動で野球部へ配属となりました。競技経験はありませんが、現在は息子が通う少年野球チームで“球拾い”コーチとして奮闘中。記者としても、様々な話題を拾います。ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。クラフトビール好きです。
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