〈下〉辰吉丈一郎バンコクで見た夢「ちょっとだけ休むよ」今もジムワークを続けている

元WBC世界バンタム級王者・辰吉丈一郎は、タイの地で何を見たのか。再起戦白星から、およそ5カ月が過ぎた09年3月。再び戦う姿を見せたのは、バンコクの同じ会場だった。ボクシング愛を貫く男の、衝撃の“ラストファイト”とは…。上下編の下。

ボクシング

バンコク2戦目、復活を信じ日本から多くのファンが駆けつけた

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5か月後の09年3月、元王者とかませ犬

男はまた、同じバンコクのリングに立っていた。

まずは探るように距離を置き、丁寧に左ジャブを突いていた。

だが1分過ぎ。フック気味に放たれた左ストレートが、辰吉の顔面に突き刺さった。

続けざまに右。足元がふらつく。38歳から顔色がうせた。

いきなりの大ピンチ。

私はリングサイドでカメラを向けながら、手元のメモに必死でペンを走らせた。決着は早いかも知れない。そう思うほど、突然の展開だった。

今度のノンタイトル10回戦の相手は、タイ国スーパーバンタム級1位サーカイ・ジョッキー・ジム。辰吉のちょうど半分の19歳だった。

開始直後のクリーンヒット以降、イノシシのような突進を繰り返した。テクニックやコンビネーションなどない。がむしゃらに拳を振り回す。

これを辰吉は無防備に受け続けた。

不思議な巡り合わせというべきか。

辰吉が前回タイで再起した08年10月26日、沖縄でノンタイトル戦が行われた。無名の牧野サトシに10回KOで敗れたタイ人こそが、サーカイだった。

元世界王者と“かませ犬”。