辰吉寿以輝の現在地〈6〉金がとれるスパーリング 世界1位との6ラウンド

平成のカリスマ、丈一郎を父に持つ辰吉寿以輝(27=大阪帝拳)。

日本初の親子世界王者につながる道を一途に歩む。

1月23日、大阪エディオンアリーナで日本バンタム級10位与那覇元気(32=真正)とのノンタイトル8回戦を行う。

試合2週間前、スパーリングの打ち上げが行われた。

その相手は、WBA世界バンタム級王座の次期挑戦者で、同級1位石田匠(32=井岡)。

果たして寿以輝の実力は、どれほどのものなのか。

濃密な6ラウンドの顛末(てんまつ)は-。

バトル

「過ぎ」という言葉に感じた当たりのにおい

「本日、ジムにお邪魔しようと思っています。練習はいつもと同じで17時ごろからスタートですか?」

「18時過ぎからです」

1月10日、昼過ぎ。

寿以輝からの返信を見て、ピンと来た。

いつもより1時間遅いスタート、そして「過ぎ」というあいまいな表現。

27歳は、時間に正確なタイプだ。

「17時に」「17時から」と書けば、その時間通りに練習が始まる。

「過ぎ」という表現は、1人では決められない=相手の存在を感じさせた。

与那覇戦の2週間前。

スパーリングの打ち上げには、ちょうどいいタイミングだ。

辰吉寿以輝が所属する大阪帝拳ジム

辰吉寿以輝が所属する大阪帝拳ジム

午後5時半すぎ、大阪帝拳ジムに到着した。

トレーナーのアトンから「あれ、知ってた? 知ってたの?」と驚かれた。

その反応でスパーリングがあることはわかったが、やけにテンションが高い。

すぐにジム内のホワイトボードを確認した。

「石田 6R」

予想以上の好カードだった。

石田匠(左)と井上尚弥(2019年2月16日撮影)

石田匠(左)と井上尚弥(2019年2月16日撮影)

世界1位との「金がとれるスパーリング」

石田匠、32歳。

元日本スーパーフライ級王者で、世界挑戦の経験がある。

現在はWBA世界バンタム級のトップコンテンダー。

昨年12月10日には世界前哨戦を3回TKOでクリアした。

同級王座は「モンスター」井上尚弥の弟、井上拓真(28=大橋)が保持している。

拓真が2月の防衛戦をクリアすれば、そのベルトに挑戦する可能性がある。

これ以上の相手はいない。

辰吉寿以輝×石田匠。

俗に言う「金(入場料)がとれるスパーリング」。

しかも6ラウンド。

ただ寿以輝は減量のまっただ中にある。

石田は前哨戦を終えてから、初のスパーリングで元気いっぱいだった。

石田匠(左)のパンチを浴びる田中恒成

石田匠(左)のパンチを浴びる田中恒成

両者のコンディションにばらつきがあるが、こんなスパーリングに立ち会うことは、なかなかない。

張り詰めた空気の中
始まりを告げるゴング

石田に同行した井岡一法会長も見守る中、ジム内の人間すべてがリングサイドに集まり、注目の6回が始まった。

本文残り76% (3023文字/3963文字)

スポーツ

益田一弘Kazuhiro Masuda

Hiroshima

広島市生まれ。2000年の入社からバトル、相撲、サッカー、野球を担当して、13年からオリンピック担当。
14年ソチ、16年リオデジャネイロを取材して、18年平昌、21年東京は五輪班キャップを務める。東京五輪後に一般スポーツデスク。
大学時代はボクシング部で全日本選手権出場も初戦敗退。アマチュア戦績は21勝(17KO)8敗。