取手G3国際自転車トラック競技支援は、短期登録ブフリの完全Vで幕を閉じた。そのブフリら外国人を支えるのが通訳のジェリー・ルー氏(64)だ。記者も取材の際にとてもお世話になった。

ブフリの優勝会見を通訳するジェリー・ルー氏(右)(撮影・野島成浩)
ブフリの優勝会見を通訳するジェリー・ルー氏(右)(撮影・野島成浩)

 「外国人選手は好青年ばかり。競輪にたずさわる4月から10月。毎年、この時期が楽しみなんだ」。ルー氏はスポーツ好きが興じてこの仕事に就いた。両親は中国出身で、日本生まれ。17歳で一家でアメリカに渡り国籍と永住権を取得した。しかし「やっぱり生まれたところが好き」と家族と離れて日本に戻った。中国語と日本語、英語に精通し、通訳のエージェントに所属する。短期登録制度が始まった09年から競輪に関わっている。

 「春になると、今年もいよいよ始まるなと思う。選手はいろんな国から来るけれど、みんなが話すのは英語。国際大会は全て英語で進行するからね」。例年4月になると競輪学校に行き、来日した外国人選手の訓練や講習に帯同する。レースになれば、前検日から最終日まで行動をともにする。ちなみに通訳の費用は基本的に外国人選手の自己負担だ。

ルー氏(左)はブフリを「ひょうきんでサービス精神がある」と親しみを持つ(撮影・野島成浩)
ルー氏(左)はブフリを「ひょうきんでサービス精神がある」と親しみを持つ(撮影・野島成浩)

 「彼らは移動を苦にしない。今回は合流も解散も取手駅。もちろん自分も選手宿舎に泊まり、一緒にご飯を食べたり映画を見たりした」。レース参加中は外部と連絡できない外国人選手の心のケアにも一役買っている。

ルー氏(左)が報道陣にボスのレース談話を発表する。氏も「年長らしく外国人をまとめている」とボスを頼りにする(撮影・野島成浩)
ルー氏(左)が報道陣にボスのレース談話を発表する。氏も「年長らしく外国人をまとめている」とボスを頼りにする(撮影・野島成浩)

 今節は世界トップクラスのブフリとボス、グレーツァーを担当するとあって、スケジュールは分刻みだった。主催者側と競輪場によって異なる動線の確認や、場内イベントの打ち合わせ。最終日にはグレーツァーから「僕のアップ用シューズがない。どこ?」と、持ち物探しも助けた。もちろん、記者への対応もきめ細やか。レース終了ごとに感想をコメント。次に翌日のレースのコメント。これを通訳する繰り返しだ。

グレーツァー(左)がルー氏にイベントの段取りを尋ねる。氏が「きちょうめんな性格」とするスピードスターは宿舎では聖書を読んで過ごす(撮影・野島成浩)
グレーツァー(左)がルー氏にイベントの段取りを尋ねる。氏が「きちょうめんな性格」とするスピードスターは宿舎では聖書を読んで過ごす(撮影・野島成浩)

 外国人と日本人がラインを組む際は、細心の注意を払う。「連係する外国人と日本人の間にも入る。彼らは最初はどこに位置して、どこから仕掛けるかとか意見をぶつけ合う。選手の特徴が分からなくても、時間をかけて、それぞれの主張を伝えたい」。今節の準決10Rは、ラインを組んだボスと鈴木裕、山中がワンツースリーでそろって決勝進出を果たした。「特にあの10Rは、3人の意思をそれぞれ正確に伝えられた結果なんだなと思った」。そんな充実感もやりがいとなる。次に向かう競輪場でも、短期登録選手の思いをつないでいく。

【野島成浩】