宇都宮ミッドナイト競輪に新たな風を吹き込む女性がいた。その女性は戸田絢子さん(25)。同開催が日別の車券売り上げ最高だった、9月2日の番組編成にたずさわった。女性編成員の先駆けとして従事する姿を追いかけた。

宇都宮競輪場の番組編成室
宇都宮競輪場の番組編成室

3日午後7時半。宇都宮競輪場の番組編成室に戸田さんはいた。昨年3月にスタートした同開催は、12節目の9月第1節初日(2日)に売り上げ2億1653万2400円を記録した。編成室は、ファンの関心を引きつけた翌日も緊張感に包まれたまま。1時間半後に1Rを控え、審判や選手管理、自転車検査から資料が届く。戸田さんは資料に見やり、岩田養一郎番組課長(53)に「全選手が異状なく出走、ギヤ変更はありません」と告げた。

番組編成員の戸田さん
番組編成員の戸田さん

競輪との出合いは思いがけない場所だった。「人のために役に立ちたいと思ってました。大学で吹奏楽部にいて、高齢者の施設を訪れて演奏したんです。そこで車いすを使うお年寄りが、競輪のマークがあるバスで移動していた。マークは、街で見かける健診車にもあった。競輪はいろいろと貢献している。競輪の仕事なら人の役に立てる」。思いが募り、一昨年春に競輪を統括するJKAに入社した。

中部地区の競輪場で半年間の研修を受け、配属が番組編成に決まった。これには自身もびっくり。「まだまだ競輪を知らず、番組だけはないと思っていた」。同期もう1人と、女性編成員として挑戦を始めて2年がすぎた。

スポーツ紙や専門紙をくまなく見る。リアルタイムで変わるオッズからファンの動向を想像する
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宇都宮と取手で番組編成を担当し、他の関東6場では資格を持つ審判や検車、選手管理に携わる。時には参加選手と同じく選手宿舎に泊まり込む。JKAスタッフは男性ばかりでも、ひるみはしない。「何も分からない。未熟。求められるレベルに達していない」。今でも謙虚なままに、いろいろな角度から競輪の知識を猛スピードで蓄えた。

宇都宮2日目一般1Rを見る
宇都宮2日目一般1Rを見る

この日はA級1、2班7個レース制の2日目。選抜4Rが終わると、最終日一般1~3Rの仮番組をつくる。番組システムがあるパソコンとにらめっこ。画面上で選手データを振り分ける。「選手それぞれが力を発揮できる。ファンには展開が想定しやすい番組を心掛けています。500バンクの宇都宮なら、最終バックでどのラインが逃げて、どのラインが後方から巻き返すか。400バンクは最終ホームをイメージします」。最終日1~3R番組ができるまで20分あまり。記者のスムーズな取材にもつながった。

戸田さん(左)が岩田課長とともに仮番組をつくる。モニター上で、競走得点や直近成績などが記された選手データを各レースに振り分ける
戸田さん(左)が岩田課長とともに仮番組をつくる。モニター上で、競走得点や直近成績などが記された選手データを各レースに振り分ける

岩田課長は今春に、戸田さんの急激な成長カーブに気付いた。「今では戸田さんがまず組む。私の手直しはほんの少し。宇都宮と取手のG3を組んだり、かなり経験を積んだ。やはり2億円を売った4月も、主に戸田さんが組んだ。すごく頼りにしています」と目を細めた。

開催最終日のひとこま。戸田さん(左)が岩田課長と今節を振り返り、次節へ向けてポイントを話し合う
開催最終日のひとこま。戸田さん(左)が岩田課長と今節を振り返り、次節へ向けてポイントを話し合う

午後11時半前に準決7Rの着順が決まり、同40分には最終日の仮番組が全て発表された。確定番組ができて業務終了の12時ごろ、戸田さんの表情が和らいだ。息抜きにと用意したスイーツに、ようやく手を伸ばす。そして今開催を振り返る。「8月30日から…」。前検日の2日前から編成室に入り、選手の近況や入れ替わりをチェックした。主役や、地元エースの仕上がりはどうか。選手同士の対戦や連係のデータを調べ、どこで戦わせると盛り上がるか。補充選手の候補も考える。多くの想定が、初日の売り上げ記録につながった。

「競輪にもっと貢献したい。ギャンブルとしてスポーツとして、おもしろく、迫力がある。女性にも魅力を伝えたい」。いちずな思いの戸田さんが腕をふるう、宇都宮ミッドナイトが明日23日に始まる。【野島成浩】