トラックサイクリングキャンプの参加者たち(撮影・山田敏明)
トラックサイクリングキャンプの参加者たち(撮影・山田敏明)

女性の自転車競技者層の裾野拡大をテーマにした「トラックサイクリングキャンプin京都向日町競輪」が10月14、15日の2日間行われた。過去にはガールズケイリンの児玉碧衣や、競技でも活躍している、佐藤水菜(23年アジア大会女子スプリント、ケイリン金メダル)、内野艶和(23年世界選女子ポイントレース銅メダル)も参加した。

主催したのは競輪を統括するJKA。ガールズケイリンの選手育成のためと思われがちだが、そればかりではない。21年東京五輪の自転車女子オムニアムで梶原悠未が銀メダルを獲得したように、女子選手が世界のトップクラスと戦えるまでに、日本の競技レベルは向上している。そんな競技者も発掘、育成していこうという趣旨のキャンプだった。


練習開始前に全体ミーティングが行われた(撮影・山田敏明)
練習開始前に全体ミーティングが行われた(撮影・山田敏明)
参加者を指導する沼部早紀子コーチ(撮影・山田敏明)
参加者を指導する沼部早紀子コーチ(撮影・山田敏明)

今回17人の参加者たちを指導した日本パラサイクリング連盟ヘッドコーチの沼部早紀子さん(38)は「バンクでピストバイクに乗った経験がない人たちに楽しさを感じてもらい、自転車が好きになってほしい。その結果、競技人口が増えていけばいいと思っています。女性に合った練習方法も伝えたいし、さらにその延長線上で、どうすれば自転車競技を楽しく続けられるのかを知ってもらえればうれしい」と話した。


固定ギアの自転車の乗り方をトレーニングする参加者たち(撮影・山田敏明)
固定ギアの自転車の乗り方をトレーニングする参加者たち(撮影・山田敏明)
隊列を組んで周回トレーニングする参加者たち(撮影・山田敏明)
隊列を組んで周回トレーニングする参加者たち(撮影・山田敏明)

過去の参加者の中には現在、自転車競技で活躍している選手も多い。原石のような参加者を多く見てきた沼部さんは「内野(艶和)は高校の時に初心者レベルで参加したんですが、乗り方や全体の雰囲気を見ていると将来性があると感じました。逆に佐藤(水菜)は泣き虫で『これは駄目だな』と思っていたら、あんなに強くなった(笑い)」と人材を発掘する楽しさを話した。


トラックサイクリングキャンプの参加者たち(撮影・山田敏明)
トラックサイクリングキャンプの参加者たち(撮影・山田敏明)
競技力アップを目指して参加した山口成美さん(撮影・山田敏明)
競技力アップを目指して参加した山口成美さん(撮影・山田敏明)

今回の参加者には経験者から全くの初心者までさまざまなタイプがいた。

高校1年生の山口成美さん(15)は小学生の頃から自転車が好きで、現在は自転車部に所属してトラックとロードの両方に取り組んでいる。「今年の鹿児島国体は補欠で出場できなかったので、来年は500メートルでの出場を目指しています。そこに向けて実力を付けたいので参加しました。トレーニング方法などはすごく参考になります」と経験値を高めた様子だった。


現在、中3の西村たま子さんの目標はガールズの選手になること(撮影・山田敏明)
現在、中3の西村たま子さんの目標はガールズの選手になること(撮影・山田敏明)

中学3年生の西村たま子さん(15)は父が競輪選手の西村行貴(東京、92期)で、子どもの頃から自転車が身近にあった。「キャンプ参加は今回で4度目です。小6の時に父に連れられて初めてバンクを走ったんですが、風を切って走るのが気持ち良かった。将来はガールズケイリンの選手を目指したいです」と夢を膨らませる。


バンク走行初体験の宍戸あいさんが充実の表情を見せた(撮影・山田敏明)
バンク走行初体験の宍戸あいさんが充実の表情を見せた(撮影・山田敏明)
高知競輪場でアテンドガールをしていた宍戸あいさんは初参加(撮影・山田敏明)
高知競輪場でアテンドガールをしていた宍戸あいさんは初参加(撮影・山田敏明)

全くの初心者の宍戸あいさん(28)は、今年2月に高知競輪場で開催されたG1全日本選抜競輪のアテンドガールを務めて競輪自体は知っていた。スポーツジムで自転車型トレーニング器具に乗っていて、競技にも興味が湧いたのが参加したきっかけだ。「初めて乗って緊張感もありましたが、継続して乗りたいと思いました。自分で早くこぐ楽しさを知ることができた」と表情を輝かせた。


知田深和子さんは初のバンク走行に感動した(撮影・山田敏明)
知田深和子さんは初のバンク走行に感動した(撮影・山田敏明)

公務員の知田深和子さん(27)は職場の自転車部でロード自転車に乗っている。普段はビワイチで知られるびわ湖1周サイクリング(北湖1周160キロ、北湖と南湖合わせて1周200キロ)などを楽しんでいる。

「周りで自転車に乗っているのは男性が多く女性向けのイベントに参加したかった。ピストバイクを体験したかったんです。固定ギアは力を乗せやすかったし新鮮な体験でした。ピストバイクが欲しくなったし、トラック競技に挑戦したくなった」。今回のキャンプ参加で、新しい自分発見ができた様子だった。


21年東京五輪代表の中村妃智さんが参加者に自転車競技の魅力を語った(撮影・山田敏明)
21年東京五輪代表の中村妃智さんが参加者に自転車競技の魅力を語った(撮影・山田敏明)
21年東京五輪代表の中村妃智さんが参加者に自転車競技の魅力を講演した(撮影・山田敏明)
21年東京五輪代表の中村妃智さんが参加者に自転車競技の魅力を講演した(撮影・山田敏明)

キャンプでは練習だけでなく、21年東京五輪自転車の女子マディソンに出場した中村妃智さん(きさと、30、JPF所属)のトークショーも行われた。

「今は現役から離れて、自転車競技への1歩を踏み出す人たちに携わっています。参加者たちがキャンプで楽しそうに乗っている光景を見ることができてうれしかったし、自分自身の高校時代を思い出して懐かしかった。女子が自転車競技を続ける上で、月経管理の問題や、股ずれなどの課題があるけれど、キャンプには女性アスリートの選手がたくさんいるので、相談できる環境があるのがいいと思います。自転車は苦しいけれど自分の脚力だけで、これほどスピードを出せる競技は他にはないので挑戦してほしい」と思いを語った。

今回のトラックサイクリングキャンプを取材して感じたのは、関係者たちの競技人口の裾野を広げたいという熱い思いだった。だからといって、すぐに競技選手への道に導くのではなく、「固定ギアでスピードをコントロールして楽しく乗ってもらう」が基本のコンセプトだし、「きっかけ作り」になればいいという感覚だ。

この先、参加した17人の名前を自転車競技のインターハイや国体、そしてガールズケイリンで見つけることができれば、関係者たちの努力が実る時になるのだという思いを強くした2日間だった。【山田敏明】