【ヤマコウの時は来た!】

 ◆12R 吉田拓矢は昨年の名古屋高松宮記念杯で、2周先行2着と鮮烈なG1デビューを果たした。「無我夢中で先行しました」という顔にはまだ新人らしさが残っている。それから1年たって成長した姿を見せてくれてはいるが、武田豊樹や平原康多が番手を回るとき、どう思ってレースに挑んでいるのか興味が湧いた。

 吉田 いつもアドバイスをくれる2人が付くので緊張感もありますが、しっかりゴール前勝負をしたいです。極端な話、先行だけを求められるのならそんな楽なことはないです。自分の持ち味である出切ってからが勝負と意識してレースに挑んでいます。

 関東勢は層が厚いので上位で戦うにも、内容が求められる。特に武田や平原と同乗したときのレースを深く考えることによって成長していく若手が多い。今回は2予で姿を消したが、吉沢純平もその1人だ。吉沢も気負い過ぎて結果を出すまでに時間がかかったが、先の取手G3優勝で実を結んだ。

 -武田からのアドバイスとはどんなものか?

 吉田 初めて走ったのは昨年のいわき平G3。「お前が9着になるレースは望んでいない」と言われ、「目先の1勝より先を見据えた走りだぞ」と。今年の取手全日本選抜では「先行するまでの過程が大事だ」と言われました。

 確かにあの大会から吉田の走りは微妙に変わった。受け身で走るレースではなく、攻めの姿勢が目に付いた。そこからの走りは見応えのあるレースの連続と言っていい。玉野G3で原田研太朗との先行争い。京王閣日本選手権は1予落車の不運だったが、取手G3の新山響平とのレースは迫力満点だった。

 吉田 取手G3は、優秀で新山さんを合わせて先行できたのですが、(新山をたたけず9着に終わった)決勝では力がないなと思いました。その決勝はメンバーが出そろった時点で「武田さんに自分たちで決めろ」と言ってもらい、吉沢さんには「お互い力が発揮できるように別で戦おう」と言われました。もちろん吉沢さんも先行する気が十分あったと思います。

 S級デビュー戦の15年12月、京王閣G3でいきなりタイヤ差の準Vと期待以上の成績を収めた吉田。だが、このときに感じさせたひ弱さは、今はどこにもない。

 吉田 とにかく、(京王閣の)決勝は無心で走りました。今から思うと優勝しなくて良かったと思っています。

 あと少しで優勝を逃したレースを冷静に分析した。競輪ファンは、神山雄一郎と吉岡稔真の2強時代のような絶対的に強いエースを求めている。その中で新山とはいいライバルとなって競輪界を盛り上げていくことだろう。

 吉田 新山さんとはプライベートでも仲がいいです。お互いレースの話もします。

 お互いが手の内を見せ合い、不利になるような気もするがそれは時代にあった関係なのかもしれない。

 東王座、平原や武田を連れて押し切ることができれば、吉田時代の到来ももうすぐだと思う。(日刊スポーツ評論家・山口幸二)