ボートレースの歴史が塗り替えられた。第57回SGクラシックで、優勝戦1枠の遠藤エミ(34=滋賀)がSG初制覇を果たした。ボートレースの約70年の歴史で、女子選手が最高峰グレードの大会を制したのは史上初めて。人気女子レーサーの快挙は、売り上げ右肩上がりのボート界がさらに活性化する大きなニュースとなった。

歴史的な瞬間だった。1周1M、遠藤エミが男子5人を引き連れ、先に回った。ややオーバーターンになったが、強烈なエンジンパワーで引き離し、誰も差せなかった。残り2周、勝利をかみしめる余裕はなかったが、ついに、史上初の女子SGレーサーが誕生した。「緊張でガチガチでした。うれしいです」。小さな体で歴史に名を刻んだ34歳は、震える声で快挙達成を実感した。

ボートレースは男女が同じ土俵で戦える希少な競技だ。それに憧れてレーサーの道を志した選手は多い。しかし、52年4月の初開催から約70年。ビッグレースで、女子が男子に勝つことは、あまりに険しい道のりだった。

操縦に必要な腕力に加え、木製のボートでぶつかり合えば、恐怖心との闘いも避けられない。女子には負けられない…と闘争心むき出しの男子レーサーもいる。女子同士では圧倒的に強くても、最高峰のSGでは歯が立たない-。そんな時代が長く続いたが、00年に入ると、選手全体の技量が上昇。寺田千恵、横西奏恵(引退)らSGで優出するレーサーが出てきた。

さらに20年11月、最低体重の規定が変更された。男子51キロ、女子47キロから、男子は52キロと1キロ増えたが、女子は変わらず、その差が5キロと開いた。例えば、体重45キロの選手だと重りを積み、最低体重に合わせてレースを行う。5キロ差=1艇身といわれる世界。軽量の女子が、男子と渡り合う貴重な武器になった。

女子レーサーのSG制覇を「ガラスの天井」と評したのはレジェンド・鵜飼菜穂子(引退)だった。遠藤はボートレース発祥の地・大村で、ついに見えない天井を突き破った。【東和弘】

<遠藤エミ・アラカルト>

◆生まれ 1988年(昭63)2月19日生まれ。滋賀県出身の34歳。身長155センチ、体重44キロ。血液型はA。

◆ソフトボール少女 学生時代はソフトボールに情熱を注ぎ、競技歴4年で県ベスト4の成績。イチローの本を愛読する。

◆2度目で合格 2歳上の姉、ゆみ(107期・引退)が試験を受ける時に一緒に誘われたことがきっかけでレーサーの道へ。2度目の試験で合格し、やまと学校(現・ボートレーサー養成所)の門をくぐった。

◆初タイトル 08年5月デビューから初めて女子のビッグタイトルを手にしたのは、17年12月の大村プレミアムG1クイーンズクライマックスだった。4戦全勝の完全Vと圧倒的な強さを見せた。昨年8月にはプレミアムG1レディースチャンピオンを制した。

◆女子獲得賞金トップ 21年は6439万8000円を稼ぎ出して、2度目の女子獲得賞金トップおよび、優秀女子選手の栄誉を獲得した。通算優勝は37度。SGは今回で28度目の挑戦だった。

<SGとは>

ボートレースは「SG、G1、G2、G3、一般戦」と、5つのグレードに分かれている。SGはスペシャルグレードと呼ばれ、最も高いランクのレースのことをいう。1年間に計9節しかない。