いよいよその時が迫ってまいりました。今まで数回に分けて話してきたFIFAファイナンシャルフェアプレー(FFP)とそのルールによる期限はこの春になります。

今回の題材である移籍市場に関してはその直前ということもあり、このタイミングでクラブサイドは収支にある程度めどをつけておく必要があります。さもなければ主要大会に出場することができなくなるなどの制裁を食らうことになりかねません。

しかし、1000億円近い売り上げのトップクラスのクラブでも10%の利益を出しているクラブはほぼ存在しないに等しく、300~500億円クラスの中堅クラブにおいては3~5%も利益が出ていれば健全といえます。その利益額は実際のところ10~20億円前後でしかないということになります。

そうなると、大きな選手補強は基本的には既存の選手を売却しなければ成り立たなく、その選手を買い取るところがなければ成立はしません。

そのような中今までにない形での選手交換があるとすれば野球の世界では多く存在している「トレード」という取引形態になるかと考えられます。現地の報道では、チェルシーに所属するアザール選手は200億強の値段がついていることもあり、その現金を用意することができるクラブはほぼないと言っても過言ではありません。

しかしながら、1対2という形、もしくは1対3と言った形のトレードであれば十分に成立する可能性があり、エージェントにはあまりおいしくない形での取引になる可能性も十分に考えられます。特にレアル・マドリードにおいては近年、スペイン代表モラタ、クロアチア代表コヴァチッチをチェルシーに送り込んでいることもあり、そう言った過去のディールを利用することも考えられます。

クリスティアーノ・ロナウドの移籍金によって大きく利益を得たという見方もありますが、私はそうは思っておりません。獲得時に費やした金額からすると功績という部分での貢献度は高かったもののそこまで大きな利益にはなっていないと考えます。

その見方をすると、パリサンジェルマン(PSG)やチェルシーは選手の売却をする側のクラブであり、売却先が見つからないケースは、クラブの財政面が本当に危機的な状況であればあるほど、安売りをせざるを得ない状況になってもおかしくはないのかもしれません。

また、ユベントスは1選手の獲得に多額の投資を行っておりますので、これ以上の大きな選手獲得は非常に厳しいのではないかと見ることができますし、近年おとなしめのバイエルン・ミュンヘンも選手入れ替えの時期であることを考えると、ピークを越した選手の売却に走ることが考えられます。

そして選手獲得を避ける動きがあるとすれば、レアルからローン(レンタル)で契約しているコロンビア代表のハメス・ロドリゲスも買い取る動きにはならない可能性が大きいのではないかと考えられます。自ら出て行った選手に対して比較的厳しいスペインのクラブには戻ることを許されない可能性も高く、興味のある選手獲得に対するカードとして利用されることも十分に考えられると言えるでしょう。

今のところ何が起こるのかは全く予測がつきませんし、何が起こっても不思議ではありません。一番注目すべきは、ファイナンス状況が悪くなってしまう商談は絶対にすることができないということです。

基本的には選手売却が増加する傾向であることが予測されます。調子が悪かったチームもこの移籍市場でのやりくりによっては新たなスパイスを手に入れ、後半戦の躍進へとつなげる期待が持てますから、スポーティングディレクター(SD)やゼネラルマネジャー(GM)の手腕が問われるところでもあります。もしかしたら比較的資金が少ないチームに大物選手が動くことも考えられ、その場合はリーグ全体の活性化につながるという見方もできるでしょう。


次回は実際行われた移籍の裏にある経営面を探ってみたいと思います。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)