チュニジアのプレーには鬼気迫るものがあった。キックオフ直後からエンジン全開。大幅にメンバーを入れ替えた前回優勝国フランスを圧倒し、ゴールを目指した。代表の愛称「カルタゴの鷲(わし)」の通り、決勝トーナメント進出の可能性を信じて勇敢に戦った。

すでに進出を決めていたフランスも、敗色濃厚になって動いた。休ませたかったはずのFWエムバペ、デンベレ、MFグリーズマンを次々と投入。3選手は今大会屈指の破壊力を見せたが、グリーズマンの同点ゴールはオフサイドで取り消し。壮絶な試合は、チュニジアの勝利で終わった。

オーストラリア-デンマークとの平行視聴を見終わって、疲労を感じた。開幕戦から続くハイテンションの試合は、1次リーグ最終戦でさらに激しさを増している。見ていても疲れる試合の連続。プレーしている選手の疲弊が心配になる。このまま突き進んで、決勝トーナメントは大丈夫か。

FIFAワールドカップ(W杯)は長丁場。上位の常連国は大会後半にピークを合わせて調整する。1次リーグは7、8割の力で戦いながら調子を上げ、準々決勝、準決勝あたりでピークを作り、そのまま決勝まで駆け抜ける。それが、優勝争い常連国の戦い。ピークのまま突っ走れるのは、ブラジルぐらいだった。

ところが、欧州のリーグ戦を中断して開催している今大会はピークを合わせるのが難しい。多くのチームがテンション高いまま大会に入り、史上まれに見る混戦となった1次リーグは最後まで気が抜けない。どこかで息切れしてしまうのでは心配になってくる。

さらに、過密日程が追い打ちをかける。リーグ戦の合間に開催する今大会は、もともと開催期間が短い。18年ロシア大会は開幕戦から決勝まで32日、14年ブラジル大会も32日だが、今大会は29日。参加32カ国になった98年フランス大会以来初めて30日を割った。

1次リーグは毎日4試合で中3日、これまであった決勝トーナメント1回戦との間の休養日もなし。欧州各クラブからは選手の心身への負担を心配して不満の声が上がるが、この日はC組首位突破を決めて中2日で1回戦に臨むアルゼンチンのスカロニ監督も「クレイジーだ」と毒づいた。

かつて「1次リーグの後の組からは優勝は出ない」と言われた。初戦が遅くなる分、決勝までの日程が厳しくなるからだ。今回、初戦が11月24日だったG組のブラジルが12月18日の決勝まで進むとすれば、25日で7試合。ただでさえ負荷のかかる大舞台に加え、今回は心身に負担のかかるロスタイムが長時間ある。体を90分仕様にしている選手にとって、10分が大きい。

アジア開催で強さを発揮するブラジルがネイマールの合流で突っ走るのか、フランスがエムバペらのケタ違いの破壊力で連覇するのか、それとも1次リーグで苦しんだチームが駆け上がるのか-。開幕戦から目が離せない好ゲームが続くだけに、選手とチームのコンディションが最後までもつか、が心配になる。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)

2022年11月26日、フランス対デンマーク 試合後、サポーターの声援にガッツポースで応えるフランスのエムバペ
2022年11月26日、フランス対デンマーク 試合後、サポーターの声援にガッツポースで応えるフランスのエムバペ