ヴィッセル神戸の主将、FW渡辺千真(30)が目覚めた。開幕から公式戦14試合無得点で迎えた5月14日鹿島戦(カシマ)。前半14分、DF橋本和のクロスを頭で押し込み、今季初ゴールを決めた。「点を取って楽になった。自然にゴール前にいけている」。同20日東京戦(ノエスタ)と同28日C大阪戦(ノエスタ)でも得点し、3戦連発。ゴール感覚を取り戻し、量産態勢に入った。

 昨季はチーム2位の公式戦15得点だったが、今季は初得点まで時間がかかった。特に0-1で敗れた4月30日甲府戦(ノエスタ)後の取材では、丁寧に応える普段の渡辺とは違った。チーム最多6本のシュートを放ちながらも、枠をとらえることができなかった渡辺は「すみません」と頭を下げて、コメントせずに会場を去った。

 このときは「話すこともできないくらい、悔しかった」という。主将としてチームを引っ張らなければいけない立場なのに、得点できない悔しさやもどかしさがあったに違いない。それでも、2日後の練習取材では、丁寧に質問に答えるいつもの主将の姿に戻っていた。

 得点できなくても、チームからの信頼が崩れることはなかった。ネルシーニョ監督(66)は「練習でしっかり努力している。点を取ろうというプレーをしているし、そういう気持ちを感じる」と主将への思いを話し、渡辺と話す機会を設け、サポートを続けた。

 東京でも同僚だったMF高橋秀人(29)は「東京のときよりもキャプテンシーがあるし、このチームを何とかしたいという重圧はあると思う」と思いやった。そして日本代表FW本田圭佑の「ゴールはケチャップのようなもの。出ない時は出ないけど、出る時はドバッと出る」という名言を引用して「千真は大丈夫ですよ。『ケチャドバ』って感じになりますよ」と笑顔で変わらない信頼を口にしていた。

 渡辺自身もその期待に応えるようと努力し続けた。3戦連続得点で、高橋秀の言ったとおり「ケチャドバ」を体現した。

 「キャプテンという立場にいる以上、しっかりしないといけない。自分がゴールを決められなくて勝てなかったら、責任を感じるし、いろんな葛藤がありました。こういう世界ですし、結果で覆すしかないと思っていた。まだ上位は団子状態。これからもチームが勝てるようにゴールしていきたいです」

 主将の重責と無得点のふがいなさの悪循環から抜け出した渡辺は、質問した記者の目をまっすぐ見て応えてくれた。冗舌ではないが、自らの言葉で真摯(しんし)に対応する主将。そんな渡辺が率いる神戸ならば、第6節以来となる首位への返り咲きも、クラブ初の優勝も十分可能だと思えた。


◆中島万季(なかしま・まき)1988(昭63)年8月11日、鹿児島県薩摩川内市生まれ。高校野球やアメリカンフットボール、高校ラグビーなどを経験し、4月からサッカー担当。