元日本代表、北海道コンサドーレ札幌MF小野伸二(38)にとって、今年は忘れられない年になりそうだ。サッカーボール1つで世界を渡り歩いた“天才”に今、もっとも刺激を与えている存在は、おそらく小5の次女・里桜(りお)ちゃんだろう。8月に劇団四季のミュージカル「ライオンキング」札幌公演で初舞台を踏み、現在、ヒロインの子ども時代であるヤング・ナラを好演している。来年1月末までの公演が決まっており「観ている親のほうが緊張しちゃった」と笑う目は、とても優しい。

 里桜ちゃんが子役オーディションを見事に勝ち抜き、大役を射止めたのは昨年のこと。これまで、端役として舞台に立つことはあったそうだが、大きな役は今回が初めてだ。今年3月に東京から札幌へ転居し、父娘の2人暮らしが始まった。食事の用意や洗濯など、家事はもちろん父の役目。「大変は大変だけど、今まで出来なかったことなので楽しいですよ」。サラリーマンだって、こんなにどっぷり父親業に浸る機会は、なかなかないだろう。ちなみに「高校時代から下宿していたから、家事は一通りできるんです」。学業とレッスンを両立する娘を、陰ながら支えてきた。

 中1の長女は、フラダンスの全国大会で優勝した経験もあるなど、一家そろって才能に恵まれている。それ以前に、幼いながら描いた目標へ突き進む決断力や行動力、努力に驚かされる。才能は、持っているだけではダメなのだ。「お互いに人に見せる職業。今は、自分がやりたいと思うことを楽しめていれば、それでいい。頑張っている姿は、僕にとっても良い刺激になる」。父はサッカー選手で、娘は舞台俳優。形は違えど、観衆の心を捕らえる表現者という点では同じ。全盛期を過ぎたとはいえ、途中出場でサラリと得点機を演出する小野のプレーに、その柔らかなボールタッチに、サポーターは歓喜する。愛娘2人が将来、どこで、どんな大輪の花を咲かせるのか。楽しみで仕方がない。【中島宙恵】


 ◆中島宙恵(なかじま・おきえ)札幌市出身。某通信社で約10年の記者生活を経て、2011年北海道日刊スポーツへ移籍。プロ担当は、野球の横浜(現DeNA)ヤクルト、日本ハムに続いて、札幌が4チーム目。