レジェンドの言葉に考えさせられた。今年1月に現役引退を発表した元ブラジル代表FWロナウジーニョ(38)が28日、都内でのイベントに出席するため来日した。

 バルセロナ時代には2度のリーグ優勝と欧州チャンピオンズリーグ優勝に加え、05年には欧州最優秀選手賞「バロンドール」を受賞。W杯でも02年日韓大会で優勝。サッカー選手としての勲章をほしいがままにした。なにより試合中に笑みも浮かべながらボールを蹴る姿は無二のキャラクターとして、強く印象に残った。

 今後は選手育成に加え、自身が所属するバンドで各国を回る音楽活動もしたい考えを明かした。ジャンル問わず大好きだという。「サッカーに次いで自分の好きなもの。多くの人に喜んでもらいたい」と、次は全く別のステージで人々を魅了することを思い描いた。

 引退した現在も多忙な生活を送り、今回のイベントもわずか30分というタイトなスケジュール。報道陣がロナウジーニョに質問ができるのはわずか10分だったこともあり、ダメもとで簡単な質問状を送ってみた。すると、3つ記した質問のうち、1つだけ回答が返ってきた。

 質問はこうだ。「笑顔が印象的だったが、サッカー選手に大切なのは楽しむ心なのか、それともやはり戦う姿勢か。哲学があれば教えてほしい」。

 回答にはこう書かれていた。

 「私がサッカー選手としても人としても大切にしていることがあります。常にアレグリア(喜び)とともに、時を過ごすことです」

 簡素な文章に考えさせられた。6月に迫ったW杯に向かう日本代表には今、ピッチで同じことを感じながらプレーできている選手がどれだけいるのだろうか。順風満帆ではない中で勝利を目指さなければならないチームからは悲壮感すら受け取れる。喜びを感じるなどという言葉はきれいごとでしかないのか。ロナウジーニョのような、天才的な選手にだけ与えられた感覚なのだろうか。

 サッカーを仕事にする以上、楽しいだけでは済まされないのは明白だ。国の威信を背負う代表という集団が、うまくいかないときに「喜びを感じて・・・」などと口にすればひんしゅくも買うかもしれない。ただ、多くの子どもたちが夢見る場所に立つことを許された選手たちが、暗い表情でサッカーをする姿は見たくない。今のハリルジャパンは、どこか魅力が足りないように映る。勝敗に起因する部分もあるだろうが、ロナウジーニョの笑顔と言葉に、理由の1つを見た気がした。【岡崎悠利】

  ◆岡崎悠利(おかざき・ゆうり) 1991年(平3)4月30日、茨城県つくば市生まれ。青学大から14年に入社。16年秋までラグビーとバレーボールを取材し、現在はサッカーでおもに浦和、東京V、アンダー世代を担当。